火の粉の降り注ぐボルクの市街地を、クロノアたちは全速力で走り抜けていた
暴走した反応炉を止めて爆発を防ぐためである
「ロロは人が良すぎるんだよ」
呆れた顔でポプカが言う
「ほっといても自滅していく国を救ってもしょーがないジャン!」
「それでも、困ってる人がいるのに放っておくなんでできません」
「まぁロロらしいと言えばロロらしいか…おい、クロノア?」
クロノアはボルクホールでの戦いの後からずっと黙りこくっていた
手をモジモジさせて、股間の辺りを押さえている
「クロノアさん、どうしたんですか?」
心配そうにロロが声をかける
「ゴメン、ちょっとトイレに行きたくなっちゃって……」
「そういえば……」

ボルクの市街地は戦闘によって建物が破壊されていた
当然トイレも同じように瓦礫と化していて、利用できる状態ではなかった

「あんなに水をたくさん飲むからそうなるんだよ。そこらで立ちションしちゃえよ!」
ポプカが面白そうに茶化してくる
もちろんしようと思えば隠れて用をたすことはできたのだが、いつ敵に襲われるか分からないような状況で武器のリングを手放す事はあまりに危険なことだった
「大丈夫、もう少しなら我慢できるから…」

そう言うとクロノアは再び走り出した
「(本当は漏らしそうだけど…)」
クロノアは激しい尿意を催してしたが、一刻を争うこの状況でのんびりとトイレを探している暇など無かった
もし途中にトイレがあったら急いで済ませよう、そのくらいに考えていた
だが、ボルクの建物という建物は炎に包まれているか、或いは壊されているかで、なかなかトイレは見付からなかった
トイレらしき物はいくつかあったものの、ことごとく崩壊していた
そんな時である
「あ!クロノアさん、トイレがありましたよ!」
ロロが叫んだ
運良く壊されないで残っているトイレが少し先にあったのだ
「(良かった、これで心置きなく先に進める)」
そう思って急いで走っていったその時だった
瓦礫の破片に足をとられて、クロノアは思い切り前に転んでしまったのだ
この衝撃で今にも溢れでそうな膀胱から、少しだけ尿が漏れてしまったのだ

「(あぁぁぁ……ん…はぁっ!だ、駄目だ!このまま漏らすわけにはいかない!)」
続けて出てきそうになる尿を必死で押さえて、クロノアは再び歩きだした
顔には脂汗を浮かべ、尿意を我慢している人がとる典型的な体勢で少しずつ歩く……
もうなりふり構っていられる状態ではなかった
「(あともう少し……)」
トイレまではあと10mというところだった
だが今のクロノアは、一秒が一時間にすら感じられる程限界に近かった
「着いた!!!」
そう言ってクロノアがトイレに入ろうとしたときだった
トイレの向こう側から凄まじい轟音が聞こえてきたと思うと、トイレは一瞬にして炎に包まれ灰になってしまった
「ビスカーシュ!?さっき倒したはずなのになぜ?……クロノアさん?」

クロノアはふるふると震えていた
といきなり崩れ落ちるように、その場にしゃがみこんだ
「はにゃー………ぁぁぁああ……」
声にならない声を上げるとクロノアの周りに黄色い水溜まりがみるみる形成されていった
長い間我慢していた為、その放尿はとても長いものだった
長い長い放尿を終えたクロノアには、もはや目の前の敵から逃れる気力も起きなかった……

「早く逃げろ!」
ポプカに引きずられるようにして、クロノアはなんとかビスカーシュから逃げきることが出来た
幸いにも怪我をすることもなく、無事に反応炉を止めることが出来た
だが、クロノアはうつ向いたままで起き上がろうともしなかった
汚れたズボンを乾かしている間、クロノアは拾った布切れで下半身を覆っていた
いつも着ているお気に入りのズボンだったが、もう二度と着ようとは思わなかった

「(ボクは…もう……)」
「元気出してください」
うなだれるクロノアの顔をロロがのぞきこんだ
「だって……ボクは…、その…」
自分のふがいなさにクロノアは涙が出そうになって、うまく言葉にすることが出来なかった
人前で失禁することが、こんなに恥ずかしいことだとは思いもよらなかった
出来ることなら、このまま消えてしまいたいとさえ思った
「クロノアさんは……」
ロロが沈黙を破って話はじめた

「クロノアさんはいつも私が落ち込んでいると、励ましてくれますよね?おかげで私は今こうして元気でいられるんです。
だから、私はクロノアさんが大好きです。たとえどんなことがあっても……その…おもらししちゃっても、私はいつでもクロノアさんの味方です。だから…元気出してくださいね?」
慰められると余計に心が締め付けられるように感じたが、それでもロロが自分を嫌いになっていないと言ってくれたことで、多少は気が楽になった

「ロロ、ありがとう」
涙を手で拭ってクロノアが言った
「もうボクは二度とおもらしなんかしないから……だから、またボクと一緒に旅を続けてくれるかな?」
「もちろんです!さあ、次のエレメントを探しに行きましょう」
「まったく、世話が焼ける救世主だな」
「ゴメンゴメン」
ポプカとロロに励まされて、クロノアは何とかいつものように振る舞う余裕が出てきた

「早く行こう、ロロ、ポプカ!…もうボルクにいるのはこりごりだよ……」
「フフ、そうですね」
少々トラブルがあったものの、三人は再びエレメントを探しに出発した


おしまい