風の悪戯
「明日買い物に行くから早く寝るね。そうだ、じっちゃん明日の天気おしえてよ。」
パジャマに着替えたクロノアは、椅子に座ってキセルをふかせているじっちゃんを見て言った。
「晴れるが、台風の影響で少し風の強い日になるじゃろうから、気をつけなさい。」
「うん。おやすみなさい。」
じっちゃんはその日の風や雲、湿度で明日の天気を当てる事が出来る。最近になってクロノアは自ら進んで、天気を当てるコツや特徴を習い始めている。
いつもより早くベッドに入ったおかげで、全然眠気を感じない。
しかし、眠れないのにはもう一つの理由があった。
明日はロロとポプカと3人で、買い物に行くのだ。
ロロの都合で、3人で買い物に行くのはしばらく振りなので、クロノアは楽しみで仕方がなかった。
そうして明日の事をいろいろ考えている間に、眠りに就いた。
じっちゃんの天気予報通り、太陽の光とそれに照らされた綺麗な入道雲が大きく空に浮かんでいる。体は少し汗ばむくらいの暑さ。
待ち合わせ場所の公園で、クロノアは時計を見ていた。
「十時半ちょっきし。」
クロノアは時計を見て、満足そうに頷く。
ロロ達との待ち合わせ時間は十時半。
それでもまだロロ達は着ていなかったが、大抵いつも自分が早い。
クロノアが帽子をくるくる回して時間つぶしの手遊びをしていると、後ろからいつもの聞きなれた声がした。
「クロノアおはよう。待ったかー?」
時計の針は十時四十五分を指そうとしている。
「二人ともおはよう。ボクも今来たところだよ。」
声の主はポプカだった。手には広げたら自分の体の半分はあるような、たたんだ状態の紙袋を持っている。
ポプカはクロノアが駆け寄るや否や、手に持っていた紙袋をクロノアに差し出してきた。
クロノアはとりあえずその紙袋を手にとってみる。
「これがどうしたの?」
紙袋から目を放して、クロノアが質問した。
「今日は掃除用品買わないと行けないんだってさ。」
「すみませんクロノアさん。天空寺院の庭の掃除をしなくっちゃいけなくて。買い物中はクロノアさんとポプカは二人で好きなところを見ていてください。」
そういってロロは微笑んだ。。
「いいよ、途中で荷物運ぶ時もボクが持ってあげるよ。行きたいところはその後に行けばいいでしょポプカ。」
「いいよ。それよりロロ、お菓子買ってくれよ。」
「わかってる。それにいつも買ってるでしょ?」
目的地はブリーガル村唯一の大手デパート。
これが出来たのも最近で、それまでは隣町まで通わなければならなかった。
バイクや自動車は勿論、自転車さえ使わず、徒歩で村の中心部へ向かうのだった。
一口に村と言っても、部部でその状況はまるで違う。
クロノア達の家は中心部から離れた場所にある。最も、日頃から街へ遊びに行ったり、山を走り回っているので、何の苦ないのだけど。
「それにしても今日風強いなー。」
激しく靡く自分のスカーフを見ながらポプカが呟くように言った。
やっぱりじっちゃんの天気予報に紛れはないね。
クロノアは風煽られて跳ね回る自分の長い耳を無視して、話した。
「台風が接近してるんだよ。」
クロノアは少し得意な気持ちになった。
「え?!本当かよ。それだったら掃除しても意味ないじゃんか。」
ポプカが肩を落とす。
それを聞いたロロは袋を持ってない方の手を口元に当てた。
「ど、どうしよう。また掃除しなくっちゃいけないんじゃ…。」
二人が余りに取り乱していたので、クロノアは急いで訂正を加えた。
「でも台風が通り過ぎてからすれば、いいんじゃないのかな!。」
その言葉を聞いた二人は合点が行ったらしく、落ち着きを取り戻した。
「それもそうだな。ロロ、そうしたらいいんじゃないの?」
「そうね。大巫女様も許してくださると思うわ。」
クロノアも胸を撫で下ろした。
そうしている内に、目的地が見えてきた。
デパート自体の大きさもあるが、天辺についている社名看板の大きさのせいで、相当離れていても問題なく見える。
ブリーガル村に一つしかない大手デパートなのだからそこまで主張する必要も無い筈なのだが。
「結構久しぶりだから何かワクワクしてきたなぁ。」
ポプカが気楽そうにそう言う。
クロノアも「そうだね。」と軽く返事をした。
今日が楽しみだったのは事実だ。
デパートの地下3F、クロノア達は掃除用具売り場をうろついていた。
ロロは買う物を書いた手帳を見ながら、品を漁っている。
クロノアは横で買い物カゴを持って、ロロが手渡した品を入れてあげていた。
「クロノアさん別に床に置いていても構わないですよ?」
品から目を放してロロが言った。
「じゃあそうするよ。」
クロノアはカゴを床に置いて、しゃがんで品に目をやった。
ロロは微笑むと品に目を戻した。
横で商品を選ぶロロを横目で見ている。
真剣な表情で商品を選んでいる。
「ロロってばなんか主婦みたいだな。」
クロノアの横で、ポプカが二カっと呟いた。
「主婦みたいってなんで?」
ロロがキョトンとして言った。
「聞こえちゃった?だからその値札を見比べているところとかさ…」
ポプカが口元に手を当てながらモゴモゴと言った。
「値札だけじゃなくて、値札と量を見比べているのよ。」
そう言って再び品を選び始めた。
そんなロロをクロノアとポプカの二人は、何を言わずに見ていた。
ロロもずいぶん頑張ってるよね。
レジを済ませて、買った商品を袋に詰める作業を終え、自分も荷物を運ぶと言うロロを二人は手ぶらにさせた。
クロノアが大きな紙袋を持ち、ポプカは洗剤や が入ったビニール袋を頭の上で持つようにして、運んだ。
「ポプカ大丈夫なの?」
ロロがポプカの顔を見て言う。ポプカの顔を見る限り、心配せざるを得ない。
「全然大丈夫。軽い軽い。」
ポプカの顔を見て哀れが込みだして来たクロノアも気遣った。
「ボクが持ってあげようか?」
「じゃあちょっとの間だけ持ってくれよ。ありがとうな。」
ポプカは迷う事無くクロノアの空いてる手の方に、荷物を渡した。
ポプカのホッとした顔を見る限り、ちょっとの間というのは無い事だろうと悟った。
「ポプカ…」
ロロの顔からは慈しみが消えている。
「じゃあオレは責任を持ってお菓子を持つ事にするよ。」
ポプカが付け加えた。
自分も荷物を運ぶと言うロロを二人は手ぶらにさせた。
3人はエレベーターの前まで来て、ロロがエレベーターのスイッチを押した。
「クロノアさん本当にすみませんね。やっぱり私も持った方が…」
「いいよ。それにロロは掃除もしなくっちゃいけないんでしょ?」
それに自分で持つと言い出したものを、途中で渡すのでは示しがつかない。
「じゃあよろしくお願いします。」
調度エレベーターが着いた。畳み二畳程の空間には、誰も乗っていない。
「1階と…」
ロロが1階のスイッチを押すと、エレベーターの扉が静かに閉まった。
エレベーターの浮遊感を感じて間も無く、エレベーターが音を立てて、大きく揺れた。そしてその直後に照明が消えた。
それとほぼ同時に発生した揺れで、クロノア以外の二人が床に跪いた。
クロノアは激しい揺れの中、荷物を持ちながらも反射的に足で態勢を保った。
「二人とも大丈夫?」
事が起きてから数秒後、始めに口を開いたのはクロノアだった。
数秒間待ったというよりは、何も言えなかったという方が正しいだろう。
外界からの光が完璧に遮断された空間では、いくら目が慣れても視界が開ける事はない。
何も見えない暗闇の中でクロノアはまず二人の身を案じた。
クロノアが呼びかけてから瞬間、間が空いてからロロの声が聞こえた。
「私は大丈夫です。」
よかった、クロノア安心して胸を撫で下ろす。
「ポプカは大丈夫かい?」
クロノアは何も見えないが、辺りを見回しながらポプカを呼ぶ。
ポプカの返事はない。
「ポプカ、返事して!」
音でロロが床を手探りしているのが分かる。
「ポプカ?ポプカしっかりして!」
その声で初めてクロノアに不安が過ぎる。
「ポプカがどうしたの?」
目が見えないと言ってもこのくらいの空間なら声で分かるものだ。
クロノアはその場に荷物を置き、足元に気をつけながらロロの横に駆け寄った。
「気を失ってるみたいなんです…」
ロロの顔は見えなくても、その声色でどれ程不安がっているかが分かった。
「とにかく寝かして置いた方がいいよ。」
ロロはポプカを床に寝かせた。
「故障したんでしょうか…」
ロロが細々しい声で言った。
「大丈夫だよきっと。すぐ動くって。」
何の根拠も無い言葉だ。
クロノアの言った言葉とは裏腹に、何分経ってもエレベーターが動く気配は無い。
もう何時間も経ったような気がした。。
クロノアとロロはポプカの近くに座っていた。
加湿の止まった密室は、あまりに居心地の悪い環境だった。
ロロの口数もメッキリと減り、クロノアは心配になった。
「熱いね。汗かいちゃった。」
何か話す話題は無いかと思って言ってみた言葉がただの本音だった。言った後でこんな事を言ってもロロの気持ちがどうなるわけでもないだろうと気付いた。
と、横で座っていたロロが離れて、ゴソゴソと荷物を探る音がしたと思うと、再び手探りをしながらクロノアの横へ戻ってきた。
「どうしたの?」
クロノアは不思議に思いながら質問した。
「タオルとってきたんで、これで拭きますか?」
「え、ありがとう。」
そう言ってクロノアはロロの居る辺りに腕を伸ばしてみた。
フワフワのタオルが優しく、腕の汗を拭き取った。
クロノアは驚いて、思わず腕を引っ込めてしまった。
「ボク、自分で拭くから大丈夫だよ?」
クロノアは引っ込めた後で、なぜか焦りを感じている自分に気が付いた。何で焦りを感じているのか自分でも解らない。
「私が拭き取ってあげます。」
そう言うとロロは、クロノアの横に寄り添った。
「でも、汗を拭くくらい…」
「何だか落ち着かないんです。」
「大丈夫だよ、ボクが居るから安心してーーー」
ロロの手がクロノアの服にそっと触れた。
「だったら本当に安心させてください。」
今度はロロ自身が迫ってきたのが分かった。
目は見えないのに、ロロの体温と匂いのお陰でハッキリと分かる。
それが分かったのと同時に、クロノアの口は接吻で撫でられた。
驚きは瞬間で生まれて、瞬間に消えた。
あとは体の力が自然と抜けるようにして、クロノアは床に静かに倒れこんだ。
ロロの接吻は思ったよりも浅く短いものだった。
唇の表面だけがそっと撫でられた様だった。
「ロロ、これって?」
クロノアは訳が解らなかったが、その態勢を崩そうとはしなかった。
もっとも、ロロが自分の上に乗っているのが分かっていたので、するに出来なかったのだが。
「クロノアさんはこういうの嫌いですか?」
ロロが落ち着いた声で問う。
クロノアはどう答えていいのか分からない。
「嫌だったら押し退けてくれていいんですよ。」
「こういうのってどういう事なの?それより…」
クロノアが言う前に、ロロの接吻が言葉を押し殺した。
今度のはさっきと違うものだとクロノアは感じた。
ロロの玩具はクロノアを堪能するように、這いずり回った。
「くう…あふ…」
クロノアの喘ぐ声もすぐに掻き消される。
玩具はクロノアの玩具と交錯しあいながら、時に歯列を勢いよくなぞって行く。
クロノアはほとんど意識していないのに、自分の玩具が口から飛び出し、ロロの口から零れる流水を啜り始めた。
その流水を啜りつつ、ロロの玩具に弄ばれる自分をただ止めることもしない。
離れていたロロの身とクロノアの身は触れ合っていた。
ロロは顔を上げて、自分の頬を擦り付ける。
何も見えないのに、いや、何も見えないから頬の触感が冴え渡る。
ただ頬を擦られているだけなのに、止まらない。
クロノアの斜塔はとっくに垂直し、愛汁を噴き零している。
噴き零した愛汁はロロの元も濡らし、それに触発されたロロもそれを噴いている。
「クロノアさんったら気持ちいいんですね…」
頬を擦りながらロロが囁く。
「お互いさまさ。」
クロノアも小さく返す。
「クロノアさんったらフワフワなんですね……。」
「ロロだって…ま…まにゃあ!」
クロノアは小さく叫んだ。
ロロの手腕がクロノアの塔を絞るように愛撫した。
「やっぱりここもフワフワですね。」
留めなく噴き零れる愛汁。
「こんなに汗掻いちゃって。」
クロノアの頭下にあったタオルを手に取ると、クロノアのお腹を拭いた。
「拭いても拭いても綺麗にならないじゃないですか。」
ロロはクロノアの毛が逆立つように、下からなぞる様に拭いた。
クロノアのお腹のホワッと逆立った毛は、暴走する心臓の鼓動と汗で普段のそれとは別の代物になっている。
「これでよしっと。拭きましたよ。」
ロロはそう呟くとクロノアを足元に挟んだまま、上体だけを起こした。
クロノアは少し我に返る。
「ハァハァ……」
それでも息は上がったままだ。
「今度はクロノアさんが私を拭く番ですね。」
ロロが震えた声で言った。
クロノアが口を開こうとすると、すぐにロロが言った。
「でも、クロノアさんは動けそうにないから、私がやります。」
そういうとロロはクロノアに覆いかぶさった。
身が触れた時に、ロロの変化にすぐ分かった。
「ロロも暑くなったんだね。」
クロノアは楽しい気分になってくるのが分かった。
「そうですね。」
ロロも嬉しそうに短く答えた。
クロノアとロロのお腹は絡み合い、拭くどころかどちらも濡れてゆく。
クロノアのお腹の毛、一本一本がロロの身に優しくこそばいような気持ちよさを与えてゆく。
ロロの動きが少し落ち着いた。
「クロノアさんはいつも私が不安な時に、安心させてくれますよね。」
そういうとまたクロノアのお腹に自分の顔を擦りつけた。
クロノアは体をピクッとさせた。
「ロロが安心してくれたならそれでいいよ。」
ロロの顔を優しく摩りながらクロノアが言った。
ここまで来たら本当は最後まで行きたい−−−
ロロにその気があったら・・・
クロノアの迷いは野暮だった。
身をムズムズとさせたかと思うと、ロロが急に叫ぶように言った。
「クロノアさん早く!もう駄目です!」
ボクもやろうと思ったところさ。やけに落ち着いてる自分に驚いた。
クロノアは間髪を容れず、ロロに入れ込んだ。
二人の意識は遠退いた。
その後、目を覚ましたクロノアとロロは着替えた。
その何分か後にエレベーターが動き出した。
帰り道で、二人はポプカがいたので何事もなかったように歩いた。
「でも運が悪かったよな。風で電線が切れちゃうなんてさ。」
ポプカが頭を掻きながらため息をついた。
エレベーターが故障したのは、強風で電線が切れたせいだったらしい。
クロノアは身に残る、疲労感と別の感覚を感じながら荷物を持っていた。
「本当にこんな事もあるんだね。」
クロノアがそう言うと、ロロが笑みを浮かべながら言った。
「でも、私は風に感謝してますよ。」
ポプカは不思議そうな顔をしたが、クロノアも笑みを溢した。
おわり