だから忘れた夢がある。
思い出せない夢なのか。思い出さない夢なのか。
僕が夢を忘れたのか。夢が僕を忘れたのか。
それでも夢は確かにあった。


朽ち果てた廃墟の中で、その子は一人佇んでいた。
「僕」はもう幾度ここに訪れたろうか。
求められても求められても、「僕」には助けることができなかった。
真っ赤に泣きはらした瞳のまま、夢の底で今もつぶやき続けている。

「ラクルドゥ……ラクルドゥ……。」

そう、今度こそ僕は哀しみの王を助けるんだ。
「僕」は黒き夢の旅人、クロノア。

「何度来ても同じ…また忘れるんだろう、パトムルヨーナ。」
真っ赤な瞳が僕を見据える。緑色の長い耳がフワリとはためいた。
耳をつんざくような、悲鳴のような音とともにその子…哀しみの王…は浮かび上がった。

「世界の責任を取るんだクロノアァ──────!!」

目の前が黒く染まる、青い哀しみがマーブルに流れる、哀しみの王の心の中。
世界を拒絶する貝殻の中に閉じこもったシェルモード。もう何度も経験した拒絶。
それに慣れてしまった「僕」が情けない。

風だまで捕らえた敵を幾度も幾度も投げつける。
ボードで疾走する僕の耳に聞こえてくる、苦しそうなうめき声。
(※サントラ「KING OF SORROW DUBMIX」参照。できるだけ大音量で。)
もう苦しまなくていいんだ、哀しみの王。僕は、助けにきたんだ。助けたいんだ。
衝撃に耐え切れなくなった哀しみの王の貝殻が砕け散る。

廃墟の、多分元は王の間だったのだろう廃墟の中央で哀しみの王はうめく。

「なぜ哀しみを嫌うんだ……。
 なぜ僕を受け入れてくれないんだ……。
 僕はこの世界にいちゃいけないのか!」」

緑色の閃光と絶叫と共に彼は緑色の卵殻に包まれる。
スフィアモード……また、悲しみの王は閉じこもる。

「ずっと呼んでたのに!なんでそうやって閉じこもるんだ!
 出てきてくれ!哀しみの王!」

僕を拒絶しようとする手段がまた同時に彼の弱点なのも分かっている。
僕を追い出すには僕に触れなければならない。
そのために開いている外界との接触点、あの光る球体。

「エルナプルトゥ!エルナプルトゥ!エルナプルトゥ!
 責任を取れ!責任を取れ!責任を取れ……!」

叫びながら叩きつけてくる爪を風だまで切り離し、光る球体めがけて投げつける。
ピッ とヒビが入る音が聞こえて。

* * * * *

そんなに怯えた目で僕をみないで。
今まで悲しませてごめんね。

「ラクルドゥ……助けて、助けて………。」

それが本当のキミだね。
誰からも嫌われて、哀しくて哀しくて、全てを拒絶して、
それでも誰かに触れたくてしょうがなかったキミの。
泣きたくてももう泣けなかったキミの。

「助けに、きたよ。」

口に出して言う。
リングを上にかかげ、渾身の力を込めて風だまを放つ。
それはまっすぐ天井へ向かって駆け登り、第五の鐘を、
哀しみの鐘を鳴らした。

悲しげな音色は、ルーナティアに響き渡り、包み込んでいった。

* * * * *

「なぜ哀しみを嫌うんだ……。
 なぜ僕を受け入れてくれないんだ……。
 僕はこの世界にいちゃいけないのか!」

僕のひざの上で誰にともなく、
まるでこの世界全てに向かうように叫ぶ哀しみの王。
ザクリと僕の心に突き刺さる。
でも僕はもう知ってる。
キミのことを思い出して、助けたいと思ったんだ。

「もう逃げなくていいんだ。もう怖がらなくていいんだ。
 世界はもう、哀しみを忘れないよ。」

僕のひざの上で震える悲しみの王の目が、みるみる赤みを増していく。
そう、僕は、ここで間違えたんだ。

「うそつき!
 今だけだ!ずっと忘れてきた!これからも忘れる!
 今まで僕を助けに来た誰もがそうだった!」

哀しみの王は叫び続ける。

「僕をまた追い出して、ラ・ラクーシャやジョイラントに逃げ込む!
 クレア母神にすがって安らぎ!ジョイラントで遊んでうさを晴らして!
 そうやって僕をまた忘れるんだ!」」

もう言葉では通じないんだ、彼には。
幾度となく彼を助けに来た「僕」がいて、たくさんの「僕」がここまできた。
そしてみんなが彼のことは忘れないと言って、そして裏切った。
哀しみの王と出会ったことまた忘れ、楽しみと安らぎに溺れていった。

「僕は裏切らないよ……。
 僕は忘れないよ……キミを、哀しみを。
 もう一人の僕。もう一人のKURO・NOIR。」

僕は、優しく哀しみの王に口付けた。
フッと悲しみの王の体から力が抜ける。
舌を差し込むと、小さな白い牙に当たる。
哀しみの王の舌は、一生懸命に僕の舌を探し当て、絡めてくる。

暖かく、まるで舌が今にも溶けてしまいそうな感触。
まったく同じもも同士がくっついて、混ざっていく感触。

「世界中の誰もが裏切りつづけても、僕だけは裏切らない。
 だってキミは、僕の心の中にいて、一人ぼっちなもう一人の僕だと知ってるから。
 この世界を作ったのは僕だから、この世界を夢見たのは僕だから。
 世界が、僕が望んで忘れ物をしたのを、知っているから。」

口を離してそう言うと、哀しみの王は僕の胸にすがって泣いた。
胸元の毛の上にパタパタと暖かい感触が伝い、流れ落ちていく。
僕は、哀しみの王の足の間をまさぐる。
フワフワした毛に包まれた小さな突起を指でつまみ上げ、前後に優しくこすりあげる。

「あっ…クロノアぁ……ぁ。」

ぴったりと頬を寄せ合い、柔らかな哀しみの王の体を抱きしめる。
耳元で喘ぐ哀しみの王の息遣いがくすぐったい。
哀しみの王の足の間の小さな突起はみるみる充血し、
ピンク色のツルツルした感触の粘膜を外にのぞかせていく。

「ほら、キミだって外に出たい。誰かに関わりたいんだ。
 だからもう、閉じ込めないし、閉じこもっちゃイヤだよ。」

哀しみの王の長い耳を抱きしめた片手でかきあげ、そっと囁いた。
悲しみの王は、小さく、分かるか分からないか程にうなづいた。
見ているだけだったらきっと分からなかったけど、
今はこうしてぴったり寄り添っているから、だからどんな動きも見逃さない、見逃せない。

哀しみの王はビクっと身を震わせると、少し怯えた目で僕を見た。
僕のものも、彼のものと同じように、毛の間から顔をのぞかせていた。

「怯えなくていいよ。僕もキミと同じなんだから。
 キミが今感じているのと同じように、僕も感じているんだから。」

上目遣いに僕の目を見つめ、もう一度僕の足の間を見つめると、
哀しみの王は、おずおずとまた僕の背中に手を回し、抱きついてきた。
硬くなった股間のものを、僕のそれに重ね合わせてくる。
先端からは、暖かくぬめった粘液が滲み出していて、こすり合わせると小さく水音がした。
お互い無言で腰を動かし続ける。
夕暮れの廃墟の中で、荒い息遣いとチュクチュクという水音だけが聞こえていた。

「あ…っ クロノア、僕もう……なんか……出ちゃいそう…っ。」

哀しみの王の高まりをピンピンと僕も感じ取る。
だって二人は同じだから。

「うん、僕も…もう出そう……一緒に、ね?」

そう言うと僕は哀しみの王の顔を引き寄せ、もう一度深くキスをした。
哀しみの王の口の中は暖かく湿っていて、荒い息が僕の口の中にも流れ込んでくる。
僕の息使いも彼の中に流れ込んでいる。

「ん…ん……ふぅ……んっ。」
「ふ…んっ…んく……ん、んっ!」

お互いの唇をついばみ、中を貪りながら、
僕と哀しみの王は同時に果てた。
僕の体毛の中に突き入れられた先端から暖かいものが迸り、僕の毛の下の肌に直に触れた。
僕も哀しみの王の毛の奥に向かって射精した。

二人で射精の快感に腰をプルプルと震わせると、
抱き合ったまま、同時にペタリと地面にへたり込んだ。

* * * * *

目を開けると、窓から朝の尖った陽光が窓から差し込んでいた。
「僕」は寝ながら泣いていたらしい。
目元から耳のあたりまで冷たい泪が流れ、枕をグショグショに濡らしていた。

そう、「僕」は哀しみの王と一つになったのだから。
もう忘れないよ。キミのことは。

起き上がろうとすると腰の辺りに暖かい違和感。
下着の中も濡れていた。

Good morning.