-Tomato-

 天空寺院、内殿。

 綺麗な水の流れる水路、規則正しい石畳の通路、その中央に聳える
天空寺院の施設。
 その隅で、壁にはしごを立てかけて作業している三人の少年少女。

 一人は寺院で修行をしている巫女のようだが、はしごの上で作業し
ている二人は、どう見ても巫女ではない。
 のんびりはしごに座り、面倒そうに壁にペンキを塗る少年と、その
一段下で楽しそうにペンキを塗る少年。
 年齢がそう離れているわけでもなさそうだが、それでいて随分と年
が離れているように見える。

「お疲れ様です、お二人とも」
 はしごの下で様子を見ていた巫女が、二人に声をかけた。見習いら
しい少女は、どうやら一番先に作業を終えたら

しい。
「おいクロノア、先に下りろ」
「あ、うん」
 下の段で作業していた耳の長い少年は、そう言われるとかんかんと
はしごを降りていく。上の段で作業していた少

年も、それを確認すると降りてきた。
「お疲れ様です、クロノアさん、ガンツさん。手伝ってもらっちゃっ
てごめんなさい」
「ううん、いいよ!ロロ一人じゃあ一日じゃ終わらなかったでしょ?」
 ロロと呼ばれた巫女はそうですね、と呟いて、まだペンキの乾かな
い壁を見た。

「もう残りも少ないみたいですし、あとは私がやります。本当は見習
いの仕事なのに、手伝わせちゃうなんて、だめ

ですね」
「ま、暇つぶしにはなったぜ?」
 つまらなそうに呟くガンツに、クロノアが苦笑いした。これでも気
を使っている気なのだろう。
 ボルクシティに寄るついでに向かった天空寺院で、まさか大工まが
いの作業をするとは思わなかった。クロノアに

とっては「これもヒーローに近づく試練だよ!」だそうだが、ガンツ
にとってはどうでもいい。
「でもガンツ、エプロンほんと似合わないね」
うっせぇ」
「あ、ペンキで汚れちゃったと思いますし、大巫女様に言えばお風呂
くらい貸してくれると思いますよ。帰る前に、よかったら――」

 ロロが内殿のほうを見ながらそう言った瞬間、天空寺院に強い風が駆け抜けた。
「きゃっ!」
 塵が目に入らないようにガンツは手で目を覆う。と、頭上からガタン!
と音がした。

 ばしゃッ!
「ふにゃっ!?」
 クロノアの驚いた声で顔を上げると、ガンツは一瞬目の前の光景に沈黙
した。

「ぶぁっははは、クロノア、おま…っ、ちょっとそれは間抜けすぎじゃ
ねェか?!」
「が、ガンツさん、それはちょっと言いすぎだと…っ!」
 腹を抱えて笑うガンツ、同じく笑いを堪えながらフォローするロロ。
「な、なんだよー!って笑ってないで、誰か助けてよ!目があけらんな
いよ!」
 当の笑われているクロノアはというと、真っ赤なペンキを全身に浴び
て、目に入
らないようもがいている。
「プププ…と、トマト…」
「え、トマトが何?!やだよ絶対食べないからね!」
「ちげーよ、バカ。とにかくコレ、どうにかしねェとまずいよな」
 まだ笑い足りないらしく腹筋の痛みを感じながら、ガンツは呟いた。
「そうですね、じゃあ、ここはおかたづけしておきますので、ガンツさ
んあとよろしくお願いします。お風呂、二階にあるので」
「…って、オレがやんのかよ?!」
「ええ、だって私、女の子ですよ?クロノアさん一人で背中まで洗うの、
無理ですよ」

 それも確かにそうだ。仕方が無いといえば仕方が無いし、何より落ちて
きたペンキは実はガンツがはしごの上に放置したものだった。
「ったく、世話ン焼ける奴だな。来いよ」
 ガンツは仕方なく、クロノアの手を取って天空寺院の内殿に向かった。


 大巫女に聞くまでもなく、内殿に入るなり他の巫女が慌てて案内をして
くれた。事情を話している間に目的の場所までたどり着く。
「ガンツー、なんかつっぱってるよー、今どこにいるの?目の前が赤いよ
ー!」
「だーー、うっせぇ!風呂ン中に投げ込むぞテメェ!」
 喚くクロノアを一喝して、脱衣所に入る。個人用のバスルームらしく、
鍵もかけられるようだ。
 間違えて人が入ってきたら、元々女性の多い天空寺院、どうなるかわか
ったものじゃない。後ろ手に鍵をしめ、ガンツはため息をついた。
「……めんどくせぇ。さっさと終わらすぞ」

「えーと、服を脱げばいいんだよね」
 クロノアが目を閉じたまま尋ねてくる。ひとことああと返して、ガンツは
自分もつけていたエプロンを外し、服を脱ぎ始めた。上を脱いだ時にクロノ
アのほうを見ると、まだもたもたとシャツのジッパーに手をかけていた。
「トロくせーな、ったく…」
 仕方なく、シャツのジッパーを下ろしてやろうとするが、ペンキで固まっ
ていて中々下りる気配は無い。仕方がないので、そのまま裾を持って上から
脱がせた。
「こりゃ落とすのに一苦労しそうだな」
 シャツも多分新しいものを用意しないといけないだろう。
「なんかゴワゴワしてきたよ…」
「あーはいはい、さっさと落とそうぜ」
 がらりとバスルームの戸を開け、中に入る。椅子にクロノアを座らせ、シ
ャワーのコックをひねると、まずは顔から洗ってやった。視界が妨げられて
いるのは一番厄介だ。
 幸いペンキがそこまで固まっていなかったおかげで、石鹸だけで落ちてく
れた。まだ少し、赤みがある気がするが、他の場所を優先することにする。

「ちっ、ペンキくせぇな」
 当たり前だが、この臭いはどうも頭にくらくらくる。クロノアにシャンプ
ーを渡して、頭を洗っている間に背中を洗い流してやろうかと思ったが、や
はりどうも動きが鈍い。
「イライラすんな、テメーは。こうすんだよ」
 シャンプーを付けなおして、しゃかしゃかとリズミカルに粟立てる。白い
はずの泡はペンキのせいで真っ赤だ。
「わ、ガンツ上手だね」
「オメェがヘタクソなんだよ」
「わふ〜…」
 軽く洗い流しながら何度か洗っていると、クロノアは気持ち良さそうに目
を細めた。緊張感のなさに、ガンツは妙にイライラする。同時にそんなに気
持ち良さそうな顔で、背中を預けるなと突っ込みたかった。
「流すぞ、息止めてろ」
「え?っわぷっ!」
 言った瞬間に上から湯をかけられ、クロノアは思い切り咳き込んだ。

「鼻に入った…」
「息止めてろって言っただろうが」
 顔の水分を拭い、涙目で訴えるクロノアに、ガンツは冷たく言い放つ。
「う〜、ヒドイよぉ」
 塗れているために良く解らないが、明らかに目を潤ませて、クロノアはガ
ンツを見上げた。
 こういう顔も可愛いと思いながら、そう思った瞬間ガンツは一瞬自分の思
考を疑った。
 ――今オレなんて思った!?
「はにゃ?……どうしたの?」
 首をかしげるクロノアの姿に思わず後頭部の痛みを感じた。思考の整理が
つかないまま、ガンツはクロノアの頬に手を沿え、その顔を近づけた。
「…んん!?」
 小さな口を塞ぐと、クロノアは目を丸くした。まだかすかに残るペンキの
香りは不思議と気にならない。バスルームの固い床に、小さな身体を押し倒
す。
「が、ガンツ、何す――!?」
「黙ってろ」
 もう一度深くキスを落とす。歯列を舌でなぞり、小さな舌を軽く吸い上げ
ると、クロノアは面白いように身体を震わせた。キスをしながら、先ほどペ
ンキを洗い流した胸に手を這わせる。
「ふにゃっ…!!」
 小さな突起に触れると、クロノアが身をすくめた。指で軽く摘みあげると、
涙目でいやいやと首を振る。懸命にガンツの肩を両手で掴み、押しかえそう
とするものの叶わない。

「が、ガンツ、や――」
 クロノアがみなまで言う前に、指でつまみあげていたのとは反対のほうに
ある突起を、甘噛みしてやった。ビクンと身体が跳ねる。
 その反応を楽しみながら、ガンツはもう既に反応を見せている、クロノア
自身に手を触れた。ピンクに色づいたそれの先端からは、粘りのある透明な
雫が零れている。
「ガキでも、いっちょ前に立つモンは立つんだな」
「ひっ、い、イヤだ……やめてよ!」
 ぽろぽろと涙をこぼして、やめてくれと懇願するクロノアを無視する。コ
コまで来て、後に引くのはないだろう。先端に強く刺激を与えてやると、呆
気なくクロノアは果てる。恥ずかしさに顔を覆う手を無理やり剥がして、も
う一度キスをする。今度はもう大人しく、受け入れられた。
「ちっとは素直になったじゃねェか」
 耳元でそう呟いて、ガンツは玩んでいたクロノア自身を口に含む。ひい、
と身体を震わすと、クロノアはいやいやと首を振った。
「や、やだ…な、んで、そんなトコ…――ぁあっ!」
 軽く先端を吸い上げられ、クロノアは感じたことのない感覚に恐怖した。
多分それが快楽とか快感とかいう部類の感覚だということを、今までに感じ
たこともなければ知らないのだろう。

「い、やだ、ガンツ!変になりそ――」
「キモチイイ、って言うんだよ、そりゃ」
 果てる寸前で、クロノア自身から口を離した。急に外気に触れたそこが、
中途半端に刺激から解放されてひくりと痙攣する。じんと痛みすら覚え、ク
ロノアは涙をぽろぽろと零した。
「――な、何コレぇ…恐いよ、どう、なって…っあ!?」
「キモチ良くなりたいって言ってんだよ、身体がよ」
 普通ならモノを入れる筈のない場所に指を押し入れられ、クロノアは痛み
に身じろいだ。少しずつ奥まで侵入するガンツの指が、内壁に爪を立てた。
「ひっ…ぃ、痛…ぁ…!」
「すぐ気持ちよくしてやるよ、痛いのくらい我慢しやがれ」
 無茶なことを言って、ガンツは指の数を増やす。届く限りの奥まで乱暴に
押し込むと、指の腹で内壁をかき乱す。くちゅくちゅと卑猥な音をわざと立
てながら、少しずつ律動も加えていくと、痛いと泣きじゃくったイタクロノ
アの声が次第に甘い声に変わった。もういいだろうと指をそこから抜くと、
ガンツはクロノアを抱え上げた。
「が、んつ…?」
「ちィと痛てェからな」

 抱え上げていたクロノアの秘部に、ガンツは自分自身を軽くあてがった。
条件反射でクロノアがビクリと震える。そのまま、抱えていた腕から力を抜
いて自身をクロノアの中に侵入させる。
 指とは比べ物にならない質量にクロノアは声なき叫びを上げた。自分にし
がみついて、激痛に震えるクロノアを宥めるように、ガンツは軽くキスをす
る。クロノアが漸く落ち着いてくると、少しずつその奥まで自身を埋めた。
「チッ、まだキツいな…少し手荒に行くぜ…?」
「や、やだ、痛いのは止めて…!」
 懇願するクロノアに、ガンツは取り合わず再びその身体を組み敷いた。そ
のまま奥を何度も突き上げると、クロノアは痛みと徐々に押し寄せる快感に
がくがくと震えた。元々高い声が、嬌声を上げていく。その声に自分で驚い
たのか、クロノアは歯を食いしばり声を抑えようとした。
「オレしか聴いてねェ。我慢すんじゃねェよ」
 耳元で囁きながら、軽くクロノア自身を指で撫でると、クロノアは不意打
ちの刺激に身体を仰け反らせた。まだ果てないように、ゆっくりとそこを玩
びながら、クロノアの中で自身の動きを激しくしていく。
「――ひ、あ…ぁ!ガンツ、も…う――」
 限界を訴えるクロノアに、ガンツは深くキスをする。しっかりと背中に腕
を回して抱き起こすと、最奥まで貫いた。
「――っ…!」
 ビクン、と震えて、クロノアは果てる。白濁の液体がとろりと流れ落ちた。
同時にガンツも、クロノアの内部の奥深くへと同じものを流し込んだ。

 風呂でよかったなと思いながら、ガンツはクロノアを抱えて外に出た。疲
れ果てたのか眠ってしまっているクロノアの寝息はとても静かだ。
 何であんなことをしたのだろう、自分でも全く理解が出来ない。確実に理
解しなければならない現実は、自分がクロノアに欲情してしまったというこ
とだろう。
「あ、ガンツさん、ペンキちゃんととれたみたいですね」
 いきなり背後からロロに話しかけられ、ガンツはビクッとして振り向いた。
「あ、ああ。思ったより早く落ちたぜ」
「よかったです。あれ、クロノアさん、眠っちゃったんですか?」
「まあ、な」
 その原因が自分だ何て絶対、口が裂けても言えない。
「クロノアさん抱えたままバイクに乗るのも、大変じゃないですか?大巫女
様にお願いして、部屋とか用意――」
「風呂まで借りたンだ、そこまでやってもらうつもりはねェよ。宿屋があん
だろ」
 ロロの台詞を遮ってそう言うと、ガンツは寺院からさっさと出た。もう日
が暮れ始めている。振り返って昼間ペンキを塗っていた場所を見ると、もう
綺麗に後片付けがされていた。
「オレも、後始末はつけねェとな」

 目が覚めると、もうベッドの中で寝かされていた。頭がボーっとする。首
だけ横に動かすと、ガンツが隣のベッドで静かに寝息を立てていた。
「……あれ、ここ、宿屋かな…でもボクは天空寺院で――痛っ」
 起き上がった瞬間に襲った鈍痛で、クロノアは天空寺院でのことを思い出
す。途端に顔が真っ赤になってしまった。
「あ……服まで着せてくれたのかな…?」
 しっかりとパジャマに着替えさせられているのを確認すると、クロノアは
ガンツのほうを見た。
 天空寺院でペンキをかぶって、ガンツに洗い流してもらって、それからあ
んなことになって。
 実際その行為のときには何も考えられなかったが、今なら少しだけ何をし
たのかがわかる。
「……ガンツ…ボクのこと、好きなのかな?でも、なんだか恐かったよ…」
 思い出すと乱暴なことばかりされたことのほうが強く記憶に残っている。
だけれど、クロノアはガンツのことを少なからず、本人の次くらいに知って
いるつもりだった。それも考え直してみると、クロノアはガンツのことをこ
れっぽっちも知らない。今は亡き父親の話や、子供の頃の思い出、どれもい
つか話してくれるだろうと思って深く聞いたことはなかった。
 ちょっと一緒に旅をした程度で、実はいい奴だ、とか、大事な友達だとか、
勝手に考えていたかもしれない。ガンツが何を考えているかなんて結局ガン
ツにしか、わからない。
「でも、ボクのこと、嫌いじゃない…よね?ガンツ」

 眠っているガンツの背中に問いかけた。返事なんかないことは解っていた
が、とにかく口について質問が出た。
「――バーカ。嫌いならなんで一緒に行動してんだよ」
「!!」
 まさかの返答は、アッサリ帰ってきた。
「お、起きてたの?!いつから…」
「なんだか恐かった、ってあたりからだぜ。オレは眠りが浅いんだよ」
 ゆっくりベッドから起き上がると、ガンツはクロノアの隣にどかっと腰掛
けた。態度のデカい、いつも通りのガンツの様子に、クロノアは少しだけ安
堵した。
「……ヒデェ事しちまったな」
 ガンツは俯いてボソリと呟く。クロノアがえ?と顔を上げると、その頬に
ガンツが手を当て軽く撫でた。
「許してくれとは言わねェケドよ、悪かったとは思ってるぜ」
「……」
 クロノアはまた俯いて、暫く沈黙する。それから、思い切ったようにガン
ツに問いかけた。
「ガンツは、ボクのこと好きなの?嫌いなの?」
「……え?」
 驚くガンツに、クロノアは目に涙を浮かべて続ける。

「ボク、ガンツのこと大好きだよ。さっきみたいなこと、されても全然構わ
ないよ。でも、でも…」
 皆まで言う前に、ガンツはクロノアを抱き寄せた。同時に自分は本当に取
り返しのつかないことをしたのだとも理解した。
「バカヤロウ、あんなん嫌いな奴相手になんか死んでもやンねェよ」
「ホント?じゃあガンツはボクのこと嫌いじゃないの?」
 もぞもぞと顔だけ上に向けて、まだ涙目のままのクロノアが言う。
「だいたい、最初に言っただろうが。嫌いならなんで一緒に行動してんだっ
て」
「あ、そっか……そうだよね、エヘヘ…」
 安心しきった表情で涙を拭うと、クロノアはにこりと微笑んだ。だが、ま
たその目から涙がぽろぽろと零れる。
「……あれ?何でボク泣いてるんだろ…?おかしいな、嬉しいはずなのに、
どうして…」
 ごしごしと涙を拭いながら呟くクロノアの背中を、ガンツが軽くさすって
やった。
「そーゆーの、嬉し泣きってんじゃねェか?」
 嬉しいときに泣くやつもいる。笑う奴もいる。
 だから泣いてもいい。
 そう囁かれて、クロノアは小さく頷くと、ぎゅっとガンツの胸に顔を埋め
た。

Tomato / END
Thank you for reader.