退屈だ。
 広い部屋の中で、クロノアはため息をついた。
 あちこちを飛び回るガンツとは違い、身内も居て帰る場所もあるクロノア
は、ブリーガルに戻ってもとの生活を営んでいた。
 しかしブリーガルに戻ってからというものの、何とはなしに物足りない、
そんな気分をずっと抱えていた。
 それというのも、いつも近しかった存在が側に居なくなったということも
関係しているように思える。
 じっちゃんとの生活も、ポプカやチップルと毎日遊ぶのも、不満なわけじ
ゃない。
 ここを一度旅立つ前まではずっとそうしてきたのだから。
 しかし――
「最近、遊びに来ないなあ、あいつ」
 ため息をついて窓際でべったりとうつぶせると、クロノアは呟いた。

 月に2〜3度はブリーガルに顔を見せに来ていたガンツは、ここ二ヶ月ほ
ど何の連絡もなく、村にも訪れていなかった。
 天空寺院での出来事から急速に深まっていったはずの二人の仲がいきなり
崩れ去って行くような気がして、ここ一ヶ月クロノアは不安で仕方がなかっ
た。
「ボクの事なんか…忘れちゃったのかな?」
 ため息混じりに、クロノアは窓の外を見上げる。夜空には星々が自己を主
張するかのごとく、光り輝いていた。
 だが、夜空いっぱいの星々は、これと言って特にクロノアに何の感情も沸
かせなかった。
 いつもなら綺麗だな、とか、ありきたりだけど当たり前の気持ちがわいて
くるはずなのだけど。
 今は何も考え付かなかった。
 月明かりの下、クロノアは窓も閉めずにベッドに倒れ込んだ。
「顔くらい見たいな、忘れててもいいから…」
 このまま窓でもよじ登って、ひょっこりと現れないだろうか?

 そんな期待ももう無駄ということは解っていた。
「今頃どうしてるのかな」
 窓から見える月を眺めて、クロノアは本日何度目かのため息をついた。
 横になって、月に背を向ける。寝間着の襟元をぎゅっと掴んで、いつの間
にか零れていた涙の粒を拭った。
 どこか同じ空の下にいるはずのガンツのことを思うと、自然と、胸がドキ
ドキとした。
 身体がとても熱い。その熱さは特に身体の中心で強さを増して、無意識に
熱い息を吐き出す。手が、無意識に中心を目指す。そこに少しだけ手が触れ
ると、クロノアはビクンと身体を跳ねた。
「んぁ…っ」
 いつもなら耳元で、自分以外の声が囁くはず。
「う…ん、んっ…」
 だが今は自分の声のみ。
 自身の手が触れるたびに、熱い息と声が交互に漏れる。
 何度も果てそうになるのに、昇り詰めることは出来なかった。

 このままでいることも、上り詰めることも出来なくて、クロノアは目に涙
をいっぱいにためる。
 ――ガンツならどんな風に触ってくれたっけ。
 ふと、そう考える。
 もう一度恐る恐る、自身に触れて、いつもされているように――と思い出
しながら、指を上下に動かす。
「あ、――ぁあ、や…っあ!」
 先程より幾分か快感を感じる。が、不器用に刺激を与えられたそこはまだ
果てる気配はなかった。
「ふ、あ…はやく…帰ってきて…っ……ガンツ、ッ…んぁ」
 目に涙をいっぱいにため、クロノアは天井を見上げた。
 行き場を失った快感に、身体を震わせる。
 いないはずの相手に、手を差し伸べた。
「や、も、…我慢…できないよォ…っ」
 相変わらず、中心はビクンと痙攣する。
 体の奥からじんじんと痛みすら感じる。
 不意に、天井に向けていた手が、握り返された。
「いーい眺めだぜ。クロノア」
 そんなガンツの台詞に、クロノアは一瞬幻覚を見たと思い込んだ。

「オレが居ない間に、随分色気づいたじゃねェか」
 窓の外から、よじ登って部屋に入ってくると、ガンツはクロノアの頬に手
を触れ、軽いキスを落とす。
「……!? ガンツ…どうして!?」
 キスの感覚で、現実だということを知る。
「仕事が長引いてよ。長いことほったらかして悪かったな。
 ……話の前に、コレ、処理しねェとな?」
 ガンツはそこまで言うと、クロノアが触れていた部分に手をあてがう。そ
のまま、先端に指をぎゅっと押し付けた。
「ひ、んぁ、あっ…!?」
 待ち焦がれた相手に、キスをされる。触れられる。抱きしめられる。
 それだけで、胸の鼓動は酷く早くなる。
 自分では与えられない刺激に、クロノアは身体を跳ねさせる。
「――オメェも、なかなか淫乱になったよなァ?クロノア」
「…っ」
 次の刺激を待ち構えて、ビクンと何度も震えるクロノアに、ガンツは耳元
で囁いた。
 焦らされる快感すら、幼い身体を昇り詰めさせる。
「が、ガンツ…ダメ、はや、く…ふあぁ!」

 急かした瞬間に、先端を指で弄られ、クロノアは身体を仰け反らせる。
 その反応を楽しむように、ガンツは手の中で玩んでいたクロノア自身を口
に含む。舌が絡み付く感触に、クロノアはまたビクビクと震えた。
「っあ、だ、ダメ…ガンツ、もう――」
 限界を訴えるクロノアの言葉と同時に、先端を強く吸い上げてやる。呆気
なく、クロノアは果てた。
 白く濁った、粘りのある液体が零れる。
「…っは、あ……、はあ…」
 肩で大きく呼吸して、クロノアはガンツを見上げた。
 いつものように優しいんだかそうでないんだかわからない、目つきの悪い
笑顔。
 緩やかに笑い返すと、ガンツの手が寝間着の上を捲くる。
「ついでだ、もっとイイコトしようぜ?」
「ふにゃ…っ!」
 たくし上げられた寝間着の上から、直に触れられる。薄い胸板を舌が這い
回る感覚に、背筋がぞくっとした。
 小さく、しかしはっきりと勃ちあがった突起に軽く歯を立てられ、また身
体がびくりとする。
「いつもより感じてんじゃねェか?」
「…っ!……ひゃっ、あ、だって――」
 ――ずっと待ってたんだから――

 素直に答えようとするが、あまり言葉がつながらない。頭がぐるぐるし
て、ガンツにしがみつく。
「……ま、いいか」
 耳元でそんな呟きが聞こえてくると、ぎゅっと抱きしめられる。肌と肌が
密着して、体温が混ざり合う。
「――ボクのこと、忘れちゃったかと思った――ん」
 少し落ち着いてきたクロノアが、そう呟いた。何度目かのキスでそれ以上
は黙らせる。
「――誰が忘れるかよ」
 胸中で考えるだけのつもりが口に出た。
「……よか、った…――ふぁっ」
 ぐい、と指を秘め処にあてがう。条件反射という奴で、クロノアは身体を
強張らせる。
 あてがった指を半ば強引にその中に押し込んだ。思っていたよりはすんな
りと、奥に沈む。
「くあぁ…っ!」
 それでも、慣れないそこは痛いことに変わりない。ゆっくりと指を動かす
と、クロノアは痛みとともにじわじわと襲い繰る快感に震えた。指の動きが
早くなるにつれて、クロノアは絶頂に程近く昇り詰める。
「はふぁ、あ、ガンツぅ…っ!」
 背中に回されたクロノアの手が、ガンツの背を引っ掻く。シャツの上から
爪が食い込む感触を覚えて、ガンツは口の端を笑みの形に吊り上げた。指の
動きを緩めて、もう充分と張り詰めている自身をあてがう。
「うぁ…!?」

 指と入れ替わりに、そこに無理やり腰を静めた。質量の差に激痛を覚えた
クロノアが、痛みに叫ぶ。クロノアの背に片腕を回して腰を浮かせ、最奥ま
で突き貫いた。
 休む間もない律動に、徐々に体の奥から熱いものがじわじわと沸きあがる。
肌と肌がぶつかるたび、律動するたび、響く水音。
 目の前で泣きじゃくる相手が、快感に酔うさまを見ながら、ガンツはもう
一度最奥へと自身を押し込んだ。肌がぶつかり合う音、重なる息遣い。刺激
を与えてやるたびに上がる、甘い声。
「あ、ガンツっ、も…もうっ――」
 焦点の合わない瞳で懸命にガンツを見据えて、クロノアが限界を訴える。
唇を重ねて、いっそう強く奥まで貫くと、ガンツは自身の欲をすべて、クロ
ノアの中に吐き出した。

「二ヶ月も、何の仕事してたの?」
 ベッドの中で、大分二人とも呼吸が落ち着いたところでクロノアが尋ねた。
「話せば長くなる…んだが、まあ、厄介な仕事ってやつでよ。…それより」
 ガンツはクロノアの頬を片手で包み、本日何度目かのキスをする。
「ちぃと、寝かせてくれ。ボルクから三日くらい、徹夜でバイク飛ばしてき
た…から…眠みィ――」
 クロノアの枕を半分取って、ガンツは数秒とたたないうちに眠ってしまう。
「……」
 目の前の相手が、ろくに眠りもせずわざわざ急いで戻ってきたのかと思う
と、クロノアは自然と笑ってしまう。
 まだ暗い窓の外を見上げると、大きな丸い月が見えた。
 起き上がって窓の外を見ようとするものの、ガンツの腕が上にかぶさって
いて、結局動けなかった。
 仕方なく自分も、首元まで布団をかぶった。
「…おやすみ。それから」
 隣で静かに眠るガンツに擦り寄ってから、クロノアはもう聞こえないであ
ろう言葉をつぶやいた。

「おかえり」






MOONLIGHT END

Thanks for reader.