Untitled.

 その日は妙にムシャクシャしていて、つまらないことで喧嘩をした。
 そしてクロノアは部屋から飛び出した。
 喧嘩の内容は本当に些細な内容で、自分自身の好き嫌いが原因だった。自業
自得と言えばそれまでなのだが、人間だれだって嫌いなものがあって当然だと
自分に言い聞かせてみた。
「…怒ってるかなぁ、ガンツ」
 はあと溜め息をつきながら、街を歩く。どこに行って良いかもわからず、適
当にぶらぶらと歩き回っていると、見覚えのある人影を見つけた。
「あれって、ひょっとして…」
 全身を紫のコートと帽子で覆った、暑苦しそうなマフラーの男。その姿は見
間違える要素も感じられないほどはっきりと記憶していた。
「おかしいな、ガンツは倒したって言ってたのに」
 ずいぶん前に、月に行ったことがある。そのときに、あの見覚えのある相手
──たしかジャンガとか言った男は、死んだものと皆思っていた。
 それなのに、目の前にそのジャンガがいることにある種の驚きと不安を覚え
て、クロノアは喧嘩なんてしたことすら忘れて宿に戻ろうとした。が──
「おおっとおチビちゃんよぉ、生きてやがったのか、久しぶりだなぁ」
 そんなことばと共に首根っこを掴まれ、クロノアは一瞬何が起こったのか理
解できなかった。
「──な──っ、は、離せ!!」
「あぁ?注文の多いガキだなぁ。ホラよ」
 パッと手が離され、クロノアは地面に不様に落っこちる。したたか鼻を打っ
て痛そうにさすりながら起きあがると、ジャンガを睨みつけた。
「なにすんだよ!」
「下ろしてくれって頼まれたから下ろしたまでじゃねぇか。感謝しても良いく
らいだぜェ?キキキキ」
 下卑た笑みを浮かべて、クロノアとわざわざ頭の高さを合わせしゃがみ込ん
だ相手は、紛れもなくジャンガだった。
「──お前っ、ガンツが倒したはずじゃあ──」

「あン?残念だったなァ、オレ様があんなへなちょこ拳銃でカンタンにヤられ
るかよ」
 毒々しい色の爪で鼻先をつつかれ、クロノアはビクッと身体をふるわせた。
ジャンガの爪には速効性ではないものの致死量の毒が含まれている事を思い出
し、身体が自然とこわばる。
「丁度良い、ガンツ坊やがどこにいるかオジサンに教えてくれねえかなァ?ン
?」
 クロノアの首もとに爪が押し付けられる。ひい、と震えて、クロノアは気持
ち背後に後ずさる。すぐに背中に手を回されて逃げる場所はなくなった。
「し、知らないよ──」
「ウソつけ、さっきオレのこと見てもときた方向に帰ろうとしたじゃねェか。
アイツに教えようとしたんじゃねェか?アァ?」
「違──んぐ!」
 すばやく手で口を塞がれて、クロノアはじたばたともがく。が、振りほどけ
るわけもなくクロノアの身体はジャンガの腕の中にひょいと抱えられた。
「ここで話す気がねェんなら、嫌でも話したくさせてやるぜェ?キキキ…」
「……ッ!!?」
 すぐ側の路地に入るジャンガに、クロノアは背筋に冷たいものを感じて懸命
にいやだとかぶりを振った。しかし、ジャンガはそれで離してくれるような軽
い相手ではない。
 薄汚い路地の突き当たりで、クロノアは無造作に置かれていた木箱の上に身
体を押し付けられた。
「は、離せぇっ!」
 懸命に逃げようともがくクロノアの努力も空しく、ジャンガの爪がシャツを
引き裂いた。はだけた肌に、ジャンガの舌が伸びる。
「ひ、──な、何を…っ!?」
「おおっと、大人しくしろよ?じゃねぇと爪が刺さっちまう」

かちりと片手だけ爪を外し、ジャンガはクロノアの両手首を押さえつけた。
首筋から下腹部にかけてを、わざとぴちゃぴちゃと音を立て舐め上げると、ク
ロノアは恥ずかしそうに顔をそらした。
「嫌だ、やめ──っひぁ」
 ハーフパンツの上から自身を軽く突つかれ、クロノアはビクリと腰を浮かせ
る。ジャンガがにやりと笑いながら、ゆっくりと下着ごとそれを脱がしに掛か
る。両足をしっかり閉じて抵抗するものの、やはり努力は報われなかった。
「キキキ、いっちょ前に感じてやがんのかァ?ガンツ坊やに何を教えられた?」
 既に反応を見せているクロノア自身に、もう片方の手も爪を外して直に触れ
てやる。反論をしようとして口を開いたクロノアが、言葉を発する前に泣きじ
ゃくった。
「い、ゃ、──やぁ、そんな…ぁ!」
 強く自身を握りこまれて、クロノアは苦しそうに息を荒げる。じんと痛みす
ら感じるそこに、ジャンガの舌がまとわりつく。小刻みに腰を震わせて、クロ
ノアは身体の奥で暴走しそうな熱に耐える。
「ガキの癖に随分慣れてるじゃねェか?キキキ…」
「……!ち、ちが…ひぁっ」
 反論する暇も与えられず自身を根元から吸い上げられ、クロノアは不意打ち
の刺激にあっさりと果てる。何かを飲み込むような舌の動きが、更に刺激を与
える。肩で息をしながら、もう許してもらえたのかと顔を上げるが、下卑た笑
みを見せるジャンガの表情で、その希望は打ち砕かれた。
「──ゃ、だ…も、やめ──」
「いいのかァ?ンな格好で戻ったらガンツ坊やはどう思うかなぁ…?
 こんな事しちまったなんて言える訳ねェよな、キキキキ」
 ジャンガの言葉に絶句して、クロノアはいやいやと首を振った。止めてくれ
と懇願するものの、ジャンガはその小さな身体の秘め処に舌を運ぶ。
「──ひ…、ぁあ!?」
 むず痒いような刺激に、クロノアはビクビクと身体を震わせる。すぐにジャ
ンガの指がそこに押し込まれ、内側を押し広げるように律動を与えられる。

「──あ、ぁ!だっ…めぇ…!」
 自身を吸い上げられた時よりも強い刺激を感じて、クロノアは真っ白になり
そうな意識を必死に保つ。腰の奥に蕩けそうな熱が集まっていくのを感じて、
その熱を与えている相手への嫌悪感と同時に押し寄せてくる快感に背筋を粟立
てた。
「こりゃあガンツ坊やが気に入るわけだ、いい反応しやがる」
「──が、ガンツのこと…っ、そんな風に──ぅあ!」
 みなまで言う前に奥に指を突き立てられ、クロノアはビクリと震えた。
「ほー、泣かせるじゃねェか。なら、二度と会いたくないと思わせてやろーか
…キキキキッ」
 ジャンガの言葉の意味を半分理解しかねて、クロノアは眼を見開く。体内を
蹂躙する指の動きが若干弱まり、入り口に指とは異なる熱いものがあてがわれ
た。
「──っ!?」
 徐々に入り込んでくるそれの質量に怯えながら、クロノアは歯を食いしばり
痛みに耐えた。
「い、痛──あぁ!」
「チッ、キツいんだよ、ちったあ力抜きやがれ」
 狭いそこに無理やり押し入られ、痛みが身体中を支配する。
 指などより格段に強い痛みを感じて、クロノアは今度こそ意識が途切れそう
になる。切れ切れに上がる声だけが、まだ耳に届いていて、まだ意識があるこ
とを認識する。
「あ、や…たす…け、──ガンツっ」
 聞こえるはずの無い助けを求めるクロノアに、ジャンガはにやりと笑う。い
っそう奥まで突き上げられて、クロノアは痛みとともに少しずつ押し寄せてく
る快感に震えた。涙で頬をぐちゃぐちゃに塗らして、クロノアは二度目の絶頂
を迎えた。それと同時に、身体の奥で何かがはじけるような刺激を覚え、その
ままぐったりとその場に倒れた。

ばたばたと廊下が騒がしい。宿の自室で雑誌に目を通していたガンツは、不
審に思いながら部屋の外に出る。と、小さな影が目の前を横切った。
「──クロノア?」
 その後ろ姿で、先程自分と喧嘩をして出て行った旅の仲間だということを理
解する。と、肩越しに振り返ったクロノアが涙目でガンツを見た。
「──おいお前──その格好」
 前がボロボロに引き裂かれたシャツに気付き、ガンツはクロノアに数歩近寄
ったが、クロノアはすぐに自室へと入って閉じこもってしまった。
「……なんなんだ?おい、クロノア!」
 酷く怯えた表情でこちらを見ていたクロノアに、ガンツは訝り部屋のドアを
叩く。
「おっと、かわい子ちゃんはご傷心らしいぜェ」
「!!?」
 いきなり横からそう言われ、ガンツは身を強張らせた。忘れるはずも無いふ
ざけた声。まさかと思いながら、振り返った。
「ジャンガ──テメェ!?」
「キキキキ、オメェがうっかり狙いを外してくれたおかげで、この通りピンピ
ンよォ」
 狙いを外した──それは事実なのかもしれない。
 かつて、月でこの男を倒したと思っていたときはとにかくがむしゃらだった
。傷を負ったクロノアを助けるために、急いで敵を排除しなければならなかっ
たのだから。
 しかしそんなことを分析する前に、ガンツは気がかりだったことをまず質問
した。

「クロノアに、何しやがった」
「あ?オレ様は別に悪い事ァなーんもしてねぇぜ?寂しそーにほっつき歩いて
たから慰めてやっただけよ…キキキッ、ありゃ男なのが勿体ねェな」
「──テメェ!」
 腰に下げていたマシンガンを抜いて、ガンツは数発、ジャンガに向けて発砲
した。ひらりとそれをよけると、ジャンガはすばやくガンツの懐に飛び込む。
ジャンガの爪が、ガンツの顎にすばやく当てられた。
「!?」
「あの素直な坊やがこりゃまたご立派な男になったもんだぜ。オレの教育の賜
物じゃねえか。え?」
「……っ、ふざけんじゃねェ!」
 力任せに何発か発砲する。が、ゼロ距離のはずの銃弾はジャンガをかすりも
しなかった。二度目の銃声に、宿の別の客が部屋から顔を出す。
「チッ、騒がしくなってきやがった。今日のところはこれでお暇してやらァ。
次はもう少し遊んでやるぜェ」
「待ちやがれ!」
 ガンツを馬鹿にしているのか、ジャンガはゆっくりと振り返り出口へ向かう。
両手に持った銃を構えるが、宿の宿泊客の視線を感じて、ガンツは銃を下ろし
た。
「──クソォ!」
 だん、と壁を叩いて、ガンツは去っていくジャンガの背中を睨みつけること
しかできなかった。