過去の遺物

ガンツはある街のホテルのベッドに寝転んでいた。
いつもよりも高級なホテル。なぜだか広い、自分だけの空間が欲しかった。
ガンツ一人には広すぎるのではないかと思う広さに、そこらの部屋には到底なさそうな家具。
ため息をついて、大きな窓から空に目をやる。
一面真っ黒に見える空には、所々雲の隙間に蒼色がちりばめられていた。

ガンツの胸騒ぎがした。空の美しさに感動して、興奮したわけではない。
そんな気持ちを目を瞑って誤魔化そうとする。
が、目を瞑る程度で自分の心を誤魔化すことなどできるわけもなかった。

ガンツは食事を済ませて、今夜は早々に眠る事にした。
自室のバスルームで、体を流して、寝る仕度をする。

風呂上りの胸元のブラッシングはガンツの日課だ。
いつも使っているブラシとドライヤーで丁寧に仕上げていく。
いつもはブラシを洗面台のところに置いておくガンツだったが、
今日は考え事をしていたせいですっかり忘れてしまっていた。
風呂上り、体を軽く拭いて急ぎ足でカバンのチャックを開けた。
暗がりでのカバンの模索は思ったよりも難しい。
ゴソゴソと手を掻き回して、ブラシを探る。
と、手に触りなれない物が触れた。
ガンツはすぐにそれが何かわかった。アルバムだ。

ブラシよりもその写真の方へ興味が行った。
ガンツは写真を引っ張り出して開いた。

クロノアとパンゴの三人で撮った写真に眼をやった。
「コイツ等どうしてんだろうなぁ。 」
写真を見て思わず独り言が零れた。
誰も見ていないのに、急いで口を閉じる。
写真に写っている自分は恥かしいくらい笑顔だった。
いや、ガンツにとっては笑顔なのだろうが、人が見たらニヤけてるだけと思うのだろう。
横のクロノアは誰が見ても笑顔と判る顔、パンゴも嘘の欠片も感じない笑顔だ。

急に胸が細くなったような、締付けられるような感覚がした。
寂しいという感情なのだろうか、自分でもよく判らない。
ガンツはこんな感情が浮かんでくるたびに自分の父親の事を思い出すのであった。
寂しさに潰されるなら、とっくにされている・・・・
アルバムを掴む指に力が入った。もう片方の指はアルバムの前のページを捲ろうとしかけた。
ガンツは現状を思い出した。
「寒っ・・・」
風呂で熱っていた体が冷めてきた。
ガンツはアルバムをカバンに戻すと、再びカバンの中を掻き回し、ブラシを取り出した。
ブラシを持って、洗面台に戻ろうとした時、誰かが部屋の戸をノックした。

「オイオイマジかよ・・! 」突然の事に焦りつつも、急いで洗面台に戻り、大雑把に服を着た。

「なんか要かよ? 」ガンツは気だるそうな口調を装って、戸を開けた。
ガンツは驚きで、一瞬眼の前が眩んだ。
「休ませてくれねぇか? 」
全身紫で猫背の長身。
濃い紫の帽子で隠れた色の違う二つの眼はガンツを見下ろしている。
体全体を覆う毒々しい紫は、その人物の人格を表しているようだ。
「ジャンガ!! なんでお前が---」
ジャンガは長い紫の爪をガンツの口にあてて、制止した。
「とにかく話は中でやろうぜ? 」ジャンガはガンツを制止したと同時に、部屋の中へ入った。
「お前は死んだはずだ! なんでここにいやがる。」
ガンツはそう言って腰に手をやった。

銃は洗面台に置いたままだ

「どうしたんだよ。ん?」
ジャンガはガンツを小馬鹿にするようにうかがった。
「なんでお前がここにいやがる! 」
ジャンガは死んだはずだ。その光景は今もハッキリと覚えている。自分が長年望んだ光景だったから---
ガンツは頭を落ち着かせようと全力を尽くした。
なぜ今のような現状があるかまったく理解できなかったが、
少なくとも好ましい現状でないことはたしかだ。

ガンツはジャンガを睨みつけたまま、一歩も動かなかった。
一方ジャンガはそんなガンツの相貌を見て、笑みを浮かべる余裕さえある。
もっとも、笑みというにはあまりにも不似合いな顔ではあるが。
「まぁそうカリカリするんじゃねぇよ。」
ジャンガはガンツを歩いて横切り、奥へ進み、ソファーに腰を下ろした。

ガンツはとりあえず騒ぐのをやめて、平静を保つ事にした。騒いだところでどうにかなるものでもない。
「とりあえず座れよ。」ジャンガは自分の横の空間を爪で指した。
自分の部屋なのになぜコイツに・・なんて考えている場合ではない。
「ふざけんじゃねぇ。とにかくなんでここにいるか話しやがれ。 」
隙をついて銃を取る。ガンツは横目で洗面台を確認した。
体術にもそれなりの自信はある。
だが、ガンツは自分の体術ではジャンガに到底敵わない事くらいわかっていた。

ガンツがいろいろと考察をしていると、もう一度ジャンガが口を開いた。
「座れよ。」
その口調は一回とは違う---懐かしさを感じるものだった。
ガンツを覆っていた緊張感、不安、怒り全てが溶けて流れるような気がした。

ガンツは自分を葛藤した。
何を考えているんだ、コイツは親父を裏切った奴だ
「ガンツ、どうした? お前らしくねぇな。 」
ジャンガは不思議そうに頭を爪で掻きながら、ガンツを嗜めるように言った。
その口調は、ガンツの昔の記憶と被る、同じモノだ。
自分をいたわって、怒って、励ましてくれた---

「だけどお前は親父を利用しやがった。利用して・・・殺った。」
ガンツは自分の気持ちを保つのが苦しかった。
裏切り者を許さないという気持ちと、もう一方の眼の前の人物に懐かしく思う気持ち。

沈黙が流れた。
空に鏤められていた蒼の輝きは、暗闇に塗りつぶされている。
沈黙を破る言葉が出ない。今ここでコイツに飛びかかるか、銃を取って撃つか。考えは浮かんでは消えていった。
自分でもなぜ消えて行くのかわからない。
ガンツはジャンガの横に座った。
ガンツはジャンガの方に顔を向けず、座ったままだった。
なぜ、こんなことをしているのかわからない。
ジャンガに心を許すということは、裏切りを許す事。
そう思いながらもガンツの頭は、ジャンガの膝に吸い寄せられるのだった。

「しばらく見ねぇ間にでかくなったじゃねぇか。 」
猫撫で声でジャンガはそう言い、ガンツの頭を撫でた。
ガンツは何も言わずに、撫でられているだけだった。
「なんだよお前、風呂入っちまったのかよ。せっかくいっしょに入ってやろうかと思ったのによ。」
ジャンガはガンツの頭を撫でていない方の手で帽子を置いて、そのまま顔をガンツの唇に降ろした。

ジャンガが自分の口に入ってきた。
本来なら殴り飛ばしてでも抗わなければならない相手。ガンツはそう思いながらもそれをする気にはなれなかった。
「ン・・・キキ・・」ジャンガの力が少し強くなってきた。
ガンツは一瞬眉間に皺をよせて表情を歪めたが、同時に表れた快感にすぐに表情が柔らかくなる。
自分の舌も動かして行く。
ジャンガの歯列を沿わせて行き、鋭く尖っている牙の先端を小さく嘗めて、自ら舌に刺激を加える。
一方、ジャンガの舌はガンツの口内全てを感じていた。
ジャンガの舌は思ってたよりずっと小さかった。
しかしガンツの口から滴るものはほとんど逃さずに吸収しているようだった。

態勢が少しきつくなったガンツは、少し上体を起こした。
それをジャンガが背中に手を回し、ガッチリと支える。
楽な態勢になった。

ジャンガの舌がガンツの口内から飛び出し、ガンツの頬を伝った。
「ンだよそれ・・・」ガンツが呟いた。
ジャンガが頬から舌を放す時の感触で体に震えが起きる。
「まだまだ幼いな、ボウズ。 」
ジャンガがもう一度頬を嘗めた。
細かく震えるジャンガの舌に、意識が集まった。
「俺にもさせてくれよ 」ガンツが遠慮気味に言う。
ジャンガは口元を吊り上げて嫌そうな表情をした。
「ああん? お前が俺にするだと? 」

ジャンガはソファーに倒れこんだ。
「オイ、こんな狭いところで二人も寝転べるかよっ。」
ガンツは少しもどかしくなった。
ガンツのスペースはほとんど無くなったが、ジャンガが両手でガンツの腰を持って支えていた。

「だったらお前の上に乗せてくれよ。 」
ジャンガは意地悪そうに二タッとすると、ガンツを挟むように入れこんだ。
突然の事で驚くガンツだったが、間髪を容れずにジャンガが密着した。

「オイ・・・どけよ。」
ジャンガの下から顔を出して、少し息苦しさを感じながら呟く。
ジャンガは何も言わずに、ガンツの胸に爪を這わせた。
ガンツの胸に蓄えられた豊富な毛を、ジャンガの爪が泳いで行く。
快感に声をあげるガンツ。そのガンツの相貌を楽しそうに見ながらガンツを愛撫するジャンガ。
ジャンガの足は激しく動き始め、ガンツの足を求め始めた。

「わかったよ! わかったからちょっと落ちつけよ!」
ガンツは自分は大声で叫んだつもりだったが、実際は快感で声があまり出ていなかった。
ジャンガの隙間から腕を回して、自分のズボンのチャックに手をかける。
チャックを降ろして、足を小刻みに震わせて、ズボンを降ろして行く。
ジャンガの足が、半ば強引にガンツのズボンを除けると、ジャンガはすぐに密着させた。
「わかってるじゃねぇか。でも、まだまだ小さいなぁ。仕方ない、俺がでかくしてやるよ。」
ジャンガは器用に動かして、ガンツと絡み合うようにした。
「っ!・・・っつ・・あっ・・・」
ガンツは快感に潰れそうになったが、すぐに自分も動かした。
ジャンガの望み通り、すぐに大きくなった。
「ったく、つまんねぇなぁ。」
ガンツが意識を遠く感じていると、ジャンガが言った。

「こんなすぐにでかくなったらつまんねぇだろ? でもまぁ出るものは出たし許してやるか。」
ガンツとジャンガの足は濡れていた。
濡れて、ジャンガの足が深く絡みついてくる。
それでもなお、ジャンガは足を震わせるように動かしてくるので快感が止まらない。

ジャンガの手が、下へ行った。
「オラ、ちゃんと開け。」
そう言って強引にガンツを開いた。
「待てよ。もう少ししてぇよ・・。」ガンツは顔を紅潮させ、汗を垂らしながらジャンガの腕を掴んだ。
「俺ァ最初っからお前のコレが目当てだったんだよ。ホレ。」
ジャンガはためらいもなく、すぐにさしこんだ。
待て、と言おうとしたガンツの声が喉の奥で消える。
ジャンガはグングンと奥へ進ませて行く。
「いっ・・・ああっ!」
ジャンガの速度では快感よりも痛みの方が上だった。
ガンツは掴んでいたジャンガの腕を思わずギュッと強く握った。
「我慢してんじゃねぇよ。」
我慢できるものじゃない。ガンツは眼の奥が急激に熱くなり、押し出されるように涙が零れた。

意識がなくなっていくのが判る。
痛みも感じなくなってきた。慣れたのか?それとももうイクのか?


眼を開けるとさっきまでの感覚はなくなり、感じ慣れている感覚に戻っていた。
ガンツはベッドの上で布団に潜っていた。体を起こして周りを見る。
ジャンガの姿はなく、ソファーにはさっきまでの事を思い出させるような痕跡はなかった。

俺なんであんな夢見ちまったんだよ。あんな奴と-----

ガンツは服を着ていることと体が湿っていない事に気付いた。
やっぱり夢だったのか。そりゃそうだな。
ガンツは自分に呆れてため息をつき、ベッドから降りた。
「いてっ・・・。」
ガンツは腹部の下に、感じ慣れない痛みを感じた。


おわり