思い出せない夢がある
忘れてしまった夢がある
何処かへ消え去ってしまったその記憶と世界は
今も何処かで漂い彷徨っているのだろうか?
朝起きたとき、確かに見たはずの夢の記憶は
曇ってしまったガラスのようにハッキリと映らず、ぼやけている
いつの日か、そのガラスの曇りが無くなるように
僕は祈りながら 夢の中へと堕ちていくのだった
夢の中の世界があることを信じながら・・・・・・・
クロノアと僕 〜 夢の世界の入り口 〜
朝
いつものように目が覚める。
眠りたいと必死に叫ぶ体を叩き、僕は起きた。
いつもと同じ目覚め。いつもと同じ朝。いつもと同じ時間。
そしていつもと同じ世界が始まる。
窓からは不快感を催しそうなほどの眩しい太陽光線が差し込んでいる。
もっと分厚いカーテンに変えたほうがいいかもしれない。
そう思いながら自分の部屋を見渡す。
僕のベッド。僕の部屋の壁。天井。床。
間違いない。ここは僕の部屋だ。
もしもこれが夢の続きでないのなら、今こうしている自分は現実の世界の自分となる。
いや、違う!
この現実こそが夢で、眠っていたときに見ていた夢こそが本当の現実に違いな―――――――
(さっきから何を馬鹿なことばかり考えてるんだろう・・・・・馬鹿みたい)
きっと疲れているんだろうな。
風邪を引いたわけでもないのに妙に体が重い。
頭がボーっとする。
でも行かなきゃ。
ちゃんとしなきゃ。
身勝手は許されない。
コレがこの世界のルール。
僕にとっての現実世界のルール。
ふと、ベッドへと振り返る。
ベッドの上、ベッドの中、そして周辺にはあるものがゴロゴロと転がっていた。
大きいものから小さいものまで大量にあるぬいぐるみ。
そのどれもが可愛い獣類をモチーフにしたものだった。
フワフワで柔らかいもの、ゴツゴツと硬いもの。
まさに抱き枕の天国だった。
「クロノアのぬいぐるみ・・・・・・・欲しいなぁ」
なぜかその言葉が自然にこぼれ出た。
誰も見ていないはず。誰も聞いていないはず。
そうだと分かっていたのだが、なぜか恥ずかしさがこみ上げてきた。
そして部屋のドアを開け、外へと飛び出していった。
ガチャリ 音を立てて、扉はゆっくりと閉まった。
誰も聞いていないだろうから、心の中で叫ぶとしよう。
僕は生物学的には男だ。それは間違いないだろう。
そして僕はケモノが好きだ。
カッコいいケモノも好きだし、可愛いケモノも好きだ。
というより、人間以外の生き物ならなんだって好きだ。
愛しているといっても過言ではない。
以前は犬や猫が好きだったのだが、今の僕は違った。
ゲームやマンガに出てくるような架空の生き物。
空想上のキャラクターが好きになっていったのだった。
最初は・・・おかしくなかった・・・はず。
もしかしたらもともと自分はおかしかったのかもしれない。
その空想上の・・・キャラクター達への愛が
どんどんどんどん膨らみ、エスカレートしていき
そして・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・僕は行けるところまで行こうと決めた。
最近の僕のお気に入りはクロノアだ。
僕の「お気に入り」は定期的に変わるものなのだが、クロノアは違った。
一日中、僕の頭の中で纏わりつき、僕の中をいっぱいにする。
それなのに・・・・。
それなのに夢の中には出てくれない。
起きている時、目覚めているときはクロノアのことを考えているのに
眠りに落ちた途端、僕の中のクロノアは消え去ってしまう。クロノアの「ク」ですら出てこないのだ。
きっと愛が足りないのだろう。
そう思い込むことにした。そう思い込むことで・・・・・・一日は終わろうとしていた。 早すぎる。
夜
一日が終わろうとしている。
そして同時に、別の世界への旅立ちを試みるための時間が始まる。
いや、単に眠って夢を見るだけなのだが。
明晰夢、幽体離脱など様々な方法は試してみたのだが、どうしても上手くいかない。
どうしてもクロノアだけが出てこないのだ。
「とりあえず・・・・もう寝よう。今日はホントに・・・・・ね、む 」
大きなぬいぐるみを抱き枕代わりにし、僕は眠りに堕ちた。
知らない道を歩いていた。
真っ白で細い道。
周りはまるで、黒いペンで殴り書きで塗りつぶしたような黒。
何も見えない。道しか見えない。
ゆっくりと歩き続けていると、扉が目の前に現れた。
危うく鼻をぶつけそうになるところだった。
古臭くて変な形で、どこか懐かしさを漂わせてるような・・・・。
僕はそのドアノブに手を掛け、そして―――――――――――――――――開けた。
ほんの少しできた隙間から何かが飛び出してくる。
煙のようなものが勢いよく僕の体を埋め尽くしていく。
暖かくもあり、どこか冷たいような感じがする白い気体。
その白い気体はあたりに満ちていき、真っ黒な壁を白く塗り替えていく。
僕はいつの間にかその開かれた扉へと歩んでいた。
これは夢だ。いつも見るような夢。
僕には何の悪影響も無い夢。
だから・・・・・どんなことでも・・・・・できる。
(今日の夢は・・・・・・・面白そうだな・・・・きっと)
僕はその線を踏み越え、扉の中の世界へと飛び込んだ。
波の音が聞こえる。
太陽の日差しが暑い・・・・。皮膚を少しずつ焼いているようだ。
ここは・・・・浜辺? 海?
僕はうつ伏せになって、砂の上に横たわっている。
そして僕の体を誰かが揺すっている。
頬を手でペチペチと叩いてくる。
そしてよくわからない言葉で何かを叫んでいる。
うるさい・・・痛い・・・放っておいてくれ、眠いんだ――――――。
そう思い、顔を上げて相手の顔を見てやった。
そこにいたのは僕がよく知っている人物だった。
正確に言えば『人』ではないのだが・・・・。
目の前にいたのはクロノアだった
僕が会いたかった・・・・・何度も会いたいと願ったクロノアが僕の前にいた。
勢いよく体を起こす。
横たわっていた人物が急に起き上がったために、クロノアは驚いてしまったようだ。
「わにゃっ!」
「あ、ご、ごめん。・・・・・・・・クロノア・・・・だよね?」
「]:;p^09:sfggf@p」
「え、なんて言ったの?」
「わ;[@p-imにゃ,lo;:@-っぷ,kp♪」
何 を 言 っ て い る の か わ か ら な い
クロノアは僕の知らない言葉で喋っていた。
聞き取れる言葉は「わふぅ」だとか「るっぷ」だとかそういった単語だけだ。
クロノアの言葉が分からないように、クロノアも僕の言葉が分からないのだろうか?
試しに何か言ってみよう。
「クロノア・・・・・だ、大好き・・・だよ?」
顔が赤くなってしまう。もっとマシなことを言えばよかったかもしれない。
どうやら『クロノア』という言葉は聞き取れたらしい。
名前を呼んだ瞬間、クロノアはピクッと反応したからだ。 (耳がピクッと動いたんだ・・・かわいい)
しかし、『大好き』という言葉は聞き取れなかったらしい。
まぁ聞き取られなくてある意味ラッキーだ。どこの世界に、初対面で告白する人がいるのだろうか?
(ここにいるんだよな・・・・)
顔を赤くしたまま俯く。
そんな僕を心配してくれたのか、クロノアは僕の顔をじぃっと覗き込む。
そ、そんなに見られたら恥ずかし――――――――――ん?
クロノアの目を覗き込んでみた。
その目には僕が映っている・・・・はずだったのだが?
目の中にいるのはまったく知らない人物だった。
いや、正確に言うと『人』では無かった。
改めて自分の体を見てみる。
パジャマを着ていない。
薄い布のようなもので作られた服をいつの間にか着ていた。
ところどころの隙間から肌が露出している。
その肌にはフワフワとした毛が生えている。 (ん・・・・・毛?)
黄色っぽいような毛だ。指で撫でてみるとフワッとして気持ちいい。
そして今度はその指を凝視してみる。
(に、肉球? 指も変だし、爪も・・・・)
犬のような猫のような手だった。
指はちゃんと5本ある。指を動かしてみると、ちゃんと思い通りに動かせた。
手袋をつけているような違和感があったが、まぁ問題ないだろう。
お尻を見てみると、フワフワした尻尾が付いていた。
神経を集中して力を入れると、フワッと動かせた。
両手で頭を触ってみる。
そこには耳が付いていた。側頭部の少し上の辺りに耳が新しく生えている耳。
掌より少し大きいくらいの面積の耳。先っぽが少しだけ垂れていた。
(・・・・・・・・・・・・・・・・・これは)
波打ち際へと駆け寄り、そして海を覗き込む。
鏡のようにはハッキリと映らないため、顔を近づける。水しぶきが少しかかるが気にしない。
水鏡には自分自身の顔が映っていた。ただし、今まで見たことの無い顔。
動物のような顔。犬のような猫のような顔。
小さな波が足首と少し大きめの靴を濡らす。
「わふぃ・・・・・:@p0-l.7j@る?」
クロノアが心配そうな顔をして駆け寄ってくる。
そりゃあそうだ。
目の前に倒れていた人物がいきなり海へと走っていけば誰だって心配する。
怪我は無いのだろうか? 何かの病気で倒れてしまったのだろうか? 他に連れはいないのだろうか? 普通ならそう思うだろう。
頭が少しだけボーッとしていたが、体に異常は無いようだ。
いや、正確に言えば体そのものが変わってしまっているのだが・・・。
痛みは無い。体は問題なく動かせる。少しだけジャンプしてみた。
着地したときに足元の水がぴちゃっと跳ねた。
クロノアは僕のそんな動きをじぃっと見つめ、オロオロとしている。
(これ以上心配掛けちゃ悪いな・・・)
そう思い、笑顔を作りながら「大丈夫だよ」と話しかけてみる。
クロノアは顔をパァッと輝かせながら、安心したような表情になる。
『大丈夫』という言葉が通じたのだろうか?
クロノアは「わふわふ」と言いながら嬉しそうに笑っている。
そんな笑顔につられて、いつの間にか僕自身も自然に笑っていた。
やっぱりこれは夢なのだろう。クロノアが目の前にいて動いて喋っている。
そして僕の体は普通とは違い、まるで獣人のような姿になっている。
(背丈は・・・・クロノアとほとんど同じくらいだな)
周りの景色を見てみる。
海の向こうの壁は白く染まっている。見えない壁というやつだろうか?
ならば今の僕は箱庭の中に入り込んでしまった小さな小さな虫のようなものなのだろう。
ファントマイルでもルーナティアでもないよくわからない世界。
きっとこの世界は僕が作ってしまった世界に違いない―――――――
(いやいや、当たり前だろう。これは夢なんだから。久々に見る、意識がハッキリとした明晰夢。滅多に体験できない夢)
もしもこれが夢ならば、醒めないように願うだけだ。醒めてしまうにはあまりにも早すぎる。
もう少しここに居させて欲しい。もう少しでいいから。
クロノアの横顔をジーーッと見つめる。
その視線に気づいたクロノアが僕を見つめ返し、にっこりと笑う。
鼻血ものの笑顔だ。
「クロノア」
「わふぃ?」
「クロノアは・・・・どこに居るの?」
「わにゃ[lo-0るっぷ:@p0-9uo;nj」
「そうなんだ。ねぇ、クロノア。僕はクロノアと一緒に居たいんだ」
「わふぅp@0-opm::@0^765dfcgvうにゅ」
「夢でもいいから」
会話になっているのか分からない。僕の言葉は届いているのだろうか?
そして僕はクロノアの言葉を受け止めているのだろうか?
見えないボールでキャッチボールしているかのように、二人の会話は続いた。
突然、周りの景色がぼやける。僕の意識も一瞬ぼやけるが、両頬をパシッと叩き、なんとか意識を失わないようにする。
その時周りの景色が歪んだ。
ビデオテープを早送りで見ているかのように景色が変わり、自分自身が勝手に動いていく。
白いものが満たしていき、視界が一瞬塞がる。
「あ、あれ?」
いつの間にか僕とクロノアは道の上を歩いていた。
周りは草原のような場所。さっきまでは海に居たはずなのに・・・。
ワープでもしたのだろうか? それとも歩きながら眠っていたのだろうか?
いやいや、夢の中なのだから『眠る』という言葉はおかしい。
記憶がスッポリと抜け落ちているだけだ。
(夢なんだから・・・・いきなり場面が変わることなんてよくあるから・・・・で、どこへ向かってるんだろ?)
クロノアに話しかけてみる。 言葉は通じないが、せっかくだから今のうちに色々と会話しておこう。
「どこへ行くの?」
「わふぅ」
「さっきまで浜辺に居たはずだけど、急に場面が変わっちゃって。 ははは」
「???」
「なんか、この靴が大きくて少し歩きにくくて・・・。姿も変わっちゃってさぁ・・・」
「るっぷるっぷ」
「それで・・・・・・・・」
「.:@plo;.@[p-o0@p;.lp@-:;.;@p-@:;.;@p-:;.;@p:;.」
「その・・・・・・・・・」
「*※*※*※*※☆」
これはなんだ?
口からは曖昧な言葉しか出てこない。
クロノアのリアクションもよくわからない。無機質な機械と話してるような。
頭が痛い。ボーッとする。
体中が痒い。ムズムズする。
体が熱い。風邪でも引いたかな?
足の感覚が無い。疲れたのかな? いや、夢の中ではほっぺをつねっても痛くないという暗黙の――――
その時、また視界が揺らいだ。
目の前には家があった。小さな家。童話に出てくるような家。ゲームで見たのとは少しだけ違う家。
「ほら、ついたよ? ここがボクのお家♪」
「へぇ・・・・・・・ん?」
あれ? 今・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「どうしたの? さっきから何回も話しかけてるのに返事が無いから少し心配だったんだ。
もしかしてお腹が空いてるの? 少しなら食べ物があるよ。口に合うかどうかは分からないけど・・・。
ねぇ、ホントに大丈夫? 海では普通に話してたのに、突然何も言わなくなっちゃったからさぁ。
心配だったんだ。色々と質問してもボーッとしてて・・・・・・。 もしかしてどこか――――」
「クロ・・・ノア?」
「ん? どしたの?」
「あれ? 僕・・・・・喋って・・・・あれ? さっきは・・・・いつのまに・・・・あれ?」
「ほらほら、とりあえず中に入ろうよ。結構歩いたから疲れたでしょ?」
「あ・・・・・うん」
どういうことだ?
クロノアの言葉が聞き取ることが出来るようになっている。
さっきまではお互いに会話することも難しかったというのに・・・・・。
周りの景色を見渡す。
僕が知らない景色。僕が見たことの無い景色。そして僕が知らない世界。
(ゆめ・・・・夢だから・・・当たり前だよな・・・・)
家の中に入ったクロノアの後を追い、僕も中へと入る。
中へ入った瞬間、またも視界が揺らいだ。
目の前にあるのは鏡。
自分自身を映し出す鏡。
もしもこれが童話に出てくるような鏡なら、会話できたり、人の心を映し出したりするのだろう。
僕の目の前にある鏡は普通の鏡だった。
そこに映っているのは僕であって僕でない姿。
小さく薄い服をまとい、耳と尻尾があり、フワフワな毛が生えているケモノ。
手を上げると鏡に映った『彼』も手を上げる。
足を上げると足を・・・。
耳と尻尾をピクピク動かすと同じように動かす・・・。
(耳と尻尾がピクピク動いてる・・・・・可愛いな)
自分自身の姿を愛おしく感じてしまう。
これでは一種のナルシストだ。いけないいけない。
自分で言うのもなんだが、今の僕の見た目は結構可愛い。
カッコいい・・・という言葉よりも可愛いと言ったほうが相応しいだろう。
これが僕の姿でなく、ぬいぐるみだったのならば我を忘れ、抱きついているに違いない。
自分の肌を触る。
フワリとした毛の感触が心地良い。体温が手に伝わる。
ふと、ズボンの中を見てみる。
(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なるほど、こうなってるのか) またひとつ雑学を得てしまった。
ガチャリと扉を開ける音がし、振り返る。
クロノアだった。
僕の元気そうな姿を見ると、嬉しそうに笑っていた。
僕も笑う。 クロノアが微笑みかけてくる。
視界が揺らいだ。
(―――――ゃうぞ)
「え?」
(醒めちゃうぞ)
「何が醒めるの?」
(夢からさめちゃうぞ)
「ああ、そういえばこれは夢だったね。忘れてたよ」
(後悔するぞ・・・・・)
「何に後悔するって言うのさ?」
(お前の目的はなんだ? お前のしたいことは・・・・)
「したいこと? 別に・・・・目的なんて」
(自分を偽るな。自分の心を誤魔化すな。自分の欲望を消そうとするな。正直になれ)
「僕は・・・・別に」
(したいんじゃないのか? 望んでいただろう? クロノアが夢に出ることを・・・・・そう望んでいたはずだ)
「確かにそうだけど・・・・。でもこれは・・・・・」
(夢の中だ。確かに夢の中だ。夢だからこそ、どんなことをしても許される。なにをしてもいい。 自由なのだ)
「そうかもしれないけどさ・・・・・これは本当に夢なの? なんだかハッキリとしすぎてるんだ。
明晰夢でもないし、幽体離脱の類でもない。意識と感覚がハッキリしすぎてて怖いんだ。
もしもこれが現実だったら・・・・・・・・。」
(こんな現実があるわけ無いだろう。 結局何もしないつもりなのか?
夢から醒めた後、『こうしてけばよかったなぁ』と笑えるのか? 出来ないだろう。後悔して後悔して―――)
「うるさい! 黙れ!」
(したいんだろう? 襲い掛かりたいんだろう? これは夢だ。 だからすればいいさ。 これは夢なんだから)
「夢?」
(そうだ)
「ホントに?」
(ああ)
「自由?」
(そうとも)
「僕は・・・願っていた」
(そうだ)
「願って・・・)
(願っていたんだよ」
視界が変わる。
「ねぇ、どうしたの? 大丈夫?」
「あ・・・・・・・」
クロノアが心配そうな顔をして僕に呼びかけている。
僕は立ちながら意識を失っていたようだ。
「願っていたんだ・・・・・・・」
「わふぃ? どうしたの?」
僕は願っていた。
こうなることを。クロノアがいる夢の中に入り込むことを。
こうして触れあえることを。
自分の服に手を掛け、それらを外していく。
頭にかかっていたものを床に落とし、服のボタンを外していく。
そして次はズボンの金具を取り外していく。
カチャカチャと音を立てながら、ズボンはポトリと床に落ちる。
最後に大きな靴を脱ぎ捨てる。
あっというまに真っ裸なケモノが完成した。
黄色と金色の中間のような色をした毛並み。
そして腹部の辺りの毛は白い。
体全体はやや細身で、両手足と尻尾がフワフワと大きい。
恥ずかしさはあまり感じない。
だけど胸の辺りはドキドキとしている。
好きな相手の前で裸になったのだから、当然といえば当然だろう。
一方、クロノアはあまりにも突然のことで、動揺を隠せずにいた。
目の前の相手がいきなり服を脱ぎだしている。
しかも異性でなく同姓が・・・・。
普通ならどんなリアクションをすればいいのか分からないだろう。
クロノアの顔は赤く染まり、目の前の相手の肉体を凝視していた。
「わっ、わっ。わふっ・・・なな、なにしてるの? 裸だったら風邪ひいちゃうよ?」
「クロノア・・・・僕・・・・・僕・・・・クロノアのことを知ってた」
「え?」
「クロノアに触れたいって・・・クロノアの・・・・・だから」
「どうしたの? 大丈夫なの? 顔色がよくないよ? ほら、服を着ないと風邪ひいちゃう」
「優しいんだね」
獲物に飛び掛かる肉食動物のように、僕はクロノアに飛び掛かり、キスをした。
舌で口をこじ開けていき、中へと進入させていく。
クロノアは目を大きく開け、抵抗しようとする。
でもさせない。これは夢の中だから。
いつ覚めてしまうか分からないから・・・・だから好きなことを今のうちにしておく。
僕がしたいことは・・・・・クロノアと。
「好きだよ」
「わにゃっ・・・だ、だめ」
少しだけ力をこめて突き飛ばす。
その先にはベッド。
ベッドの上に倒れこんでしまうクロノア。 (もちろん、ベッドに倒れるように突き飛ばしたのだが・・・)
そして組み敷くように覆いかぶさる。
クロノアの服に手を掛けて、乱暴に脱がしていく。
「僕はクロノアのことを知っていた。前から知っていた。クロノアのことが好きだった」
「な、何を言ってるのか分からないよぉ。わふぃ・・・・や、やめて」
あっという間に生まれたままの姿になってしまう。
クロノアの服の下を見るのは初めてだった。
フワフワとした黒い毛と白い毛。毛の質は僕と同じくらいだ。
手で撫でると、クロノアはビクッと体を震わせる。 感度がいいのだろう。
体が触れ合うたびに、毛がこすれ合う音が小さく響く。
噛み付くように首筋に歯を立て、舌を這わせる。
綿菓子を舐めたときのように、柔らかな毛が少しずつ湿っていく。
そしてクロノアの胸とお腹を手で強く揉み解す。
両足を使って相手の体を挟み、股間をこすり付ける。
大きく膨張したピンク色の器官の先から透明な液が滴り、クロノアの下半身を湿らせる。
「わふぅ・・・・や、駄目・・・・op@-^098あ・・・うにゅ;@^:/[@^;:\,lkmjb」
雑音が混じる。
頭痛が襲い掛かってくる。
クロノアの声が聞き取れなくなる。
何も分からない。
僕はいったい何をしようとしていたんだろうか?
(頭が痛い)
体が熱い。下半身のある部分に血液が集まり、温度が上昇する・・・。
呼吸が荒くなる。上手く息が出来ない。
(喉が熱い)
何か飲まなきゃ・・・・・喉を潤さなければ・・・・。
僕の目の前に、滴っている液がある・・・。
クロノアの体液だ。
体が刺激されたせいで、敏感な生殖器が反応してしまったのだろうか?
僕のと同じように、ピンク色の棒が大きくなり、透明な液が滴っている。
ゴクリと音を立てながら唾を飲み込む。
初めて見る、人間とは少し違う形の生殖器。
そこからは、甘いお菓子のような香りが漂ってくる。
食欲に似たような感情が押し寄せ、いつのまにか僕は『それ』を口の中に入れていた。
「にゃっ! ぁ・・・ !!!」
クロノアの悲鳴が耳に伝わる。
少々、罪悪感を感じてしまったが、その悲鳴は僕にとって興奮剤のようなものでしかなかった。
僕の口の中でクロノアの棒が膨張する。
唇で優しく噛んでやると、体液がじわぁっと滲み出て、口内を潤わせる。
噛み千切ってやろうか・・・という残虐な思考が一瞬だけ頭の中を横切ったが、すぐにそれを追い出す。
(血を見るのは好きじゃないし、そんな残酷なものは僕は好きじゃないから・・・)
両手でクロノアの太ももをつかみ、大きく広げさせ、さらに激しくしゃぶる。
クロノアの棒はどんどんと大きくなり、火傷しそうなほどの熱を持ちはじめていく。
根元は僕の右手の中に・・・。先端から真ん中までは口の中に・・・。
一度もしたことの無いような『行為』を、僕は熟練者のようにこなしていった。
「んにゃっ・・・にゃ・・・まぎゃ・・・・ん・・・・・わにゃあ!!」
大きな悲鳴と同時に、僕の口の中に真っ白な体液がビュルビュルと吐き出される。
ホースの水を勢いよく小さなカップに注ぐように
僕の口の中はクロノアの体液で満たされ、口から零れ落ちてしまう。
クロノアの体液・・・・クロノアの精液・・・・。
勿体無い。もったいない。モッタイナイ。
それを一滴も無駄にしないように、指で掬い取り、口の中に運び、しゃぶる。
甘くてコクがある味。
美味しい味。
クロノアの味。
クロノアのにおい。
今の僕の表情はいったいどうなっているのだろうか?
少しだけ・・・一瞬だけだが、そんな考えが頭に浮かびそしてすぐに消えた。
力尽きたクロノアは、虚ろな目で僕を見ている。
仰向けになり、大の字になって僕を見上げている。
僕は改めて自分の体を見てみる。
見たこと無い自分。ケモノのような姿。
もしかしたらこの姿は、僕の心をそのまま形にした姿なのかもしれない。
夢はまだ続く―――。
僕はまだ覚めない。
僕の股間のモノは大きく膨れ上がり、凄まじい快感を与えてくれる。
これをクロノアに差し込めば、全て無事に終わらせられる。
早く入れなければ・・・そうしなければ・・・。
「覚めてしまうから・・・・・」
僕はクロノアを突き刺した。
ズブッヌプッ
今までに聞いたことの無いような音を立て、僕の一部はクロノアの中へと進入していった。
何度も何度も激しく突き上げ、クロノアの中を満たしていく。
「@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
***************************************************************************************
\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\」
この声はクロノアの声だろうか? いや、もしかしたらこれは自分の口から出ている声なのかもしれない。
目の前にいるクロノアは、実はただの動く人形で、クロノアの言葉は
全て僕が自分で出していた―――――。
という仮説のようなものが頭に浮かんだ。
だがそんなことはどうでもよかった。
気絶しそうなほどの快感と衝撃が体全体に伝わっていく。
クロノアは抵抗しようともせずに電気ショックを食らったように体を震わせ、僕にしがみついてくる。
何度も何度も突き上げる。何度も何度も突き上げる。何度も何度も刺す・・・。
その度に毛と毛が触れ合う音が響く。
毛糸の手袋を装着したまま、拍手するような感じ・・・を想像してくれたら嬉しい。
口からは唾液がダラダラと零れ落ち、両手はクロノアの体を鷲づかみ。
股間からは透明な液がどんどんあふれ出てくる。
股間の棒はありえないくらいに膨らみ、このまま僕は破裂してしまうのではないだろうか
という不安が押し寄せ・・・・・・・それらは快感という波に洗い流されていった。
クロノアは僕にしがみついてくれる・・・。
だから僕は体をクロノアに密着させ、うつ伏せの体勢になり、体をこすりつけながら何度も突き上げる。
一体どれくらいピストン運動を繰り返したのだろうか・・・?
夢の中では時間という概念はまったくの無意味だ。
永遠に繰り返されるのかもしれない。
その時、下半身に違和感を感じた。
何かが・・・溢れそうだ。
いや、分かっている。終わりが来たのだ。
絶頂に達したそれは、射精という形で終わろうとしているのだ。
気絶しそうだが気絶できない・・・・そんな快感も終わろうとしている。
「クロノア・・・クロノア・・・クロノア・・クロノア」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ふと、右に何かがあるのに気づいた。
鏡だ―――。
大きな鏡があった。
最初からあったのだろうか? それとも突然現れた?
そこには僕とクロノアが映っていた。
二匹のケモノ。貪り、貪られるケモノ。
自分の体を見る。
ケモノだ。
クロノアを見下ろす。
ケモノだ。
鏡を見る・・・・。
あ・・・・・・・。
僕は気づいてしまった。
この姿が一体何なのかを・・・。
この夢の正体を・・・・・・・。
声を出そうとしたとき、僕の頬に手が添えられる。
クロノアの手だった。
フワフワとして大きな手が僕の頬に添えられ、体温が伝わる。
暖かく、優しい手・・・。
「 」
「え?」
「 」
「なに? 聞こえないよ」
「 」
「クロノア?」
僕は射精した。何度も何度も僕をクロノアに注ぎ込む。
死んでしまいそうなほどの快感と同時に意識が飛んだ。
最後に見たのはクロノアの優しい笑顔だった――――――――――――
朝
いつものように目が覚める。
眠りたいと必死に叫ぶ体を叩き、僕は起きた。
いつもと同じ目覚め。いつもと同じ朝。いつもと同じ時間。
そしていつもと同じ世界が始まる。
窓からは不快感を催しそうなほどの眩しい太陽光線が差し込んでいる。
もっと分厚いカーテンに変えたほうがいいかもしれない。
そう思いながら自分の部屋を見渡す。
僕のベッド。僕の部屋の壁。天井。床。
間違いない。ここは僕の部屋だ。
もしもこれが夢の続きでないのなら、今こうしている自分は現実の世界の自分となる。
いや、違う!
この現実こそが夢で、眠っていたときに見ていた夢こそが本当の現実に違いな―――――――あれ?
夢を見ていた?
(思い出せない夢がある)
どんな夢だったっけ?
(忘れてしまった夢がある)
なにか・・・・・・・大切な夢を見ていた気がする。
(何処かへ消え去ってしまったその記憶と世界は)
泣きそうな・・・そんな悲しい不安な気持ちになる。
(今も何処かで漂い彷徨っているのだろうか?)
なんだったっけ? 夢・・・僕が見てた夢・・・・。
(朝起きたとき、確かに見たはずの夢の記憶は)
駄目だ!! 思い出せない。 確かに夢を見ていたはずだ!! なのに・・・
(曇ってしまったガラスのようにハッキリと映らず、ぼやけている)
なんだか・・・・わからないけど・・・・
(いつの日か、そのガラスの曇りが無くなるように)
誰かに会っていたような・・・大切な何かに・・・。
(僕は祈りながら 夢の中へと堕ちていくのだった)
僕は・・・・・・確かに僕で・・・・・ここは僕の世界。
(夢の中の世界があることを信じながら・・・・・・・)
ふと、下半身の一部に違和感があった。
そ〜〜っと覗き込んでみる。
まさか、おもらし?!
いや、違った。
夢精だ。
ある意味、健康な証拠でもある生理現象。
初めて・・・・・だ・・・アハハハ。
まだ時間は早い。
汗もたくさんかいてるし、今のうちにお風呂で洗って、着がえようかな・・・?
僕は立ち上がりドアへと向かう。
右を見ると、鏡が合った。
僕の部屋の鏡。
そこには僕が映し出されていた。
いつもの僕。そこにいる僕。僕である僕。
「なんか・・・よくわからないけど・・・はやくお風呂に行かなくちゃ」
僕はドアに手を掛け、そして開ける。
振り返り、もう一度部屋の中を見渡してみる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
そして僕は部屋を出た。
そのときの僕は気づいてなかった。
僕が見た夢は・・・・・この出来事は・・・・・。
これから始まる物語の・・・プロローグでしかなかったって・・・・。
そのときの僕は考えようともしてなかったんだ。
忘れてしまった世界。僕がいる世界。
二つの世界を中心とした大きな物語。
この壮大な事件に僕が関わるなんてことを・・・・僕は気づいてなかった。
クロノアと僕 〜 夢の世界の入り口 〜
END and To Be Continue……